rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年12月3日 国家航空宇宙技術総局平壌総合管制所の「偵察衛星運用室が任務に着手」を報道、同時に関連の談話、論説などを一挙掲載

 

 本日の「労働新聞」は、第1面トップに「国家航空宇宙技術総局平壌総合管制所偵察衛星運用室が任務に着手」との見出しの下、同室が12月2日から「任務に着手」したことを報じる朝鮮中央通信の記事を掲載した。

 同記事によると、同室は「独立的な軍事情報組織として、自己の任務を遂行する」とのことで、「獲得した情報は、朝鮮労働党中央軍事委員会該当常設執行部署に報告され、指示により、国家の戦争抑制力とみなされる重要部隊と朝鮮人民軍偵察総局に提供される」とのことである。

 また、同記事は、「国防省は、共和国の戦争抑制力がより確固とした対応態勢を備えることになるであろうとの期待を表明した」としている。

 これまで、偵察衛星関連の情報を金正恩に報告する主体としては、「国家航空宇宙技術総局平壌総合管制所」の名義が用いられており、そこに「偵察衛星運用室」なるものが存在することが明らかにされたのは、本記事がはじめてのことである。今次偵察衛星の打ち上げ成功を受け、稼働を開始したのであろう。前掲記事内容から推測すると、同室は、中央軍事委の直轄下で運営されるとみられる。

 注目されるのは、中央軍事委の「常設執行部署」との表現で、具体的に何を指すのか、いかなる組織なのかは判然としないが、想像するに、金正恩に直属する「状況室」のようなもの(日本言えば、総理官邸の危機管理センターのようなもの)かもしれない。

 なお、偵察衛星の正式運用開始時期については、11月22日の金正恩平壌総合管制所視察に関する記事では「12月1日から」の予定と報じ、28日の報道では、(それに向けた作業が)「1~2日程度前倒しして進められている」としていたが、実際は、当初予定よりも1日遅れでのスタートとなったことになる。しかし、それを正直に報じていることは、同偵察衛星に対するそれなりの自信の反映といえるのではないだろうか。

 本日の「労働新聞」は、また、第2面に「党と政府、武力機関が我が国家の主権的権利行使と安全利益を侵害しようとする敵対勢力どもの悪辣な挑戦的行為に対処する立場を発表」との見出しの下、11月29日付けの金予正副部長名義の談話(30日付け本ブログ参照)に加え、「朝鮮民主主義人民共和国の宇宙資産に対するいかなる形態の侵犯も我が国家に対する宣戦布告とみなすであろう」と題する国防省代弁人談話(12月2日付け)、「敵対勢力の侵害行為から国家の自主権と安全利益を固く守護することは朝鮮民主主義人民共和国の主権的権利である」と題する外務省代弁人談話(同)をまとめて掲載した。

 「労働新聞」が、その公表直後に掲載しなかった金予正談話を後になって掲載するのは、極めて異例な報道ぶりといえる。また、こうした対外的な事柄に関する「談話」は、概して掲載されないことが多いことを勘案すると、こうした報道ぶりは、注目すべきことといえよう。金予正談話については、既に紹介ずみであるので、他の談話の骨子を簡単に紹介しておきたい。

ア 国防省代弁人談話

  • 「最近、米宇宙軍司令部の関係者は、多様な「可逆的および不加逆的方法」を使って敵国の宇宙領域活用能力を減少させることができると言い、我々の偵察衛星に対する軍事攻撃を示唆する妄言を並べ立てた」
  • 「もし、朝鮮民主主義人民共和国偵察衛星が米国にとって除去されるべき『軍事的脅威』と見なされるなら、・・我が国家の主要戦略地点を専門的に監視している数多くの米国のスパイ衛星は、朝鮮民主主義人民共和国武力の優先的な掃滅の対象になるべきであろう
  • 「米国が先端技術力を不法非道に兵器化して主権国家の合法的領域圏を侵犯しようとするなら、朝鮮民主主義人民共和国国際法と国内法によって付与された自己の合法的権利を行使して、米偵察衛星の生存力を縮小および除去するための自衛権次元の対応性行動措置を考慮することになる」

イ 外務省代弁人談話

  • 「米国は朝鮮民主主義人民共和国の正当かつ合法的な主権的権利の行使(=偵察衛星打ち上げ)に不当に言い掛かりをつけて日本、大韓民国、オーストラリアのような追随勢力まで糾合して反朝鮮制裁措置を取る主権侵害行為、敵対的行為を働いた
  • 「外務省は、我が国家に対する敵対勢力の不法非道な主権侵害行為から国家の自主権と利益を守り、平和と安全を保障し、公民の権利と利益を保護するために共和国の当該機関との調整の下、朝鮮民主主義人民共和国対応措置法に従って対朝鮮制裁政策の立案と実行に関与した米国とその追随勢力の人物らと機関、団体に対して対応措置を適用する

 要するに、国防省代弁人談話は、自国の偵察衛星に対する加害行為は、許さないぞという警告・牽制であり、外務省代弁人談話は、日米韓豪の偵察衛星関連制裁措置に対抗して、これら国家の人物・機関などに制裁措置を講じるというものである(これまでのところ具体的内容の発表はない模様)。

 本日の「労働新聞」は、更に、第6面にも、「『大韓民国』の連中は北南軍事分野合意書を破棄した責任から絶対に逃れられない」と題する「軍事論評員」名義の長文の論評(12月2日付け)を掲載している。そのハイライト部分は、次のとおりである。

  • 「9・19北南軍事分野合意書の一部の条項効力停止という傀儡一味の一方的発表と同時に・・これまでの5年間、維持されてきた軍事境界線緩衝地帯は完全に消滅し、予測不能の戦争勃発の極端な情勢が澎湃としている」
  • 軍事境界線一帯で衝撃的な事件を起こして我々の軍事的対応を誘発し、深刻な統治危機の脱出口を見いだそうとするのが、尹錫悦逆賊一味のもう一つの腹黒い下心である」(続けて、来年4月総選挙での与党大惨敗説などに言及)
  • 「我が軍隊の面前で『大韓民国』の政治・軍事ごろがあえて非道な軍事的挑発の振る舞いを繰り広げる場合、いささかの寛容もないであろうし、ただ即時的かつ強力な力で制圧、膺懲されるであろう」
  • 「我々に反対する傀儡一味のいかなる敵対行為も、傀儡軍の惨憺たる壊滅と『大韓民国』の完全消滅につながるであろう」
  • 「現在の情勢は、厳しい試練と困難の中でも偉大な党の指導の下で核戦争抑止力の強化と武力の現代化に邁進(まいしん)してきたわれわれの選択が最も正当であったし、今後もこの道に沿って変わることなく勇んで進まなければならないということを再び実証している」

 このうち、2番目の項目からは、韓国側の「挑発」に乗って「衝撃的な事件」などを起こせば、敵を利するだけという結論が導き出せるであろうから、3番目、4番目の項目で厳しい対応を予告しつつも、よほどのことがない限り、実際の武力行使は自制するのではないかとの推測が可能であろう。また、最後の項目は、すぐれて国内向けのアピールのように思われる。