rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年1月6日金正恩の岸田総理あて「慰問電文」送付を報道

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が「国務委員長」の肩書で、「日本国総理大臣 岸田文雄閣下」にあて、今般の地震被害に関し送付した1月5日付け「慰問電文」を第2面に掲載した。

 同電文の本文は、次のとおりである。

「私は、日本で不幸にも新年の年初から地震による多くの人命被害と物質的損失を被ったという報に接して、あなたとあなたを通じて遺族と被害者に深甚なる同情と見舞いを表します。

 私は、被災地の人民が一日も早く震災の悪結果をなくし、安定した生活を回復するようになることを祈願します。」

 北朝鮮の最高首脳が日本の総理大臣あてにこうした慰問の電文を送付することは、歴史的に見ても、極めて異例のことと言える。ちなみに過去の類似事例に際しては、韓国聯合通信によると、1995年の阪神地震に際しては姜成山総理が村山総理あてに慰問電文を送ったが、2011年の東日本大地震に際しては金英南最高人民会議常任委員長が朝鮮総連あてに慰問電文を送っただけであった由である。

 なお、本日の「労働新聞」第2面には、同じく金正恩イラン大統領あてに同国で発生した爆弾テロ事件に関する「慰問電文」が掲載されているが、両者の形式、表現などに特段の違いは認められない(分量的にはイランあてがやや長文だが)。かねて「反米闘争」を共にしてきた友好国にほぼ準じる「思いやり」を示したともいえる。

 こうした日本に対する「秋波」の背景には、おそらく先般来の日朝当局者間における水面下での何らかの接触があるのであろう。

 もちろん、北朝鮮側には、単なる「善意」だけではなく、先の中央委全員会議でも改めて示された米・韓に対する強硬姿勢顕著化の中で、比較的交渉の余地があると認識する日本への働きかけを示すことにより、日米韓の連携に軋みを生じさせ、あわよくば米韓への揺さぶりにもつなげたいといった思惑が働いている可能性も十分に考えられる。更に言えば、岸田政権がこのところ低下を続ける支持率挽回のために「外交成果」を渇望しており、与しやすいとの判断が働いているのかもしれない。

 ただ、日本政府としては、そうした思惑などをしっかりと踏まえつつも、この出来事を膠着した日朝関係好転の貴重な機会ととらえ、賢明・適切な対応に最大限の努力を払うべきと考える。「チャンスの女神に後ろ髪はない」のである。