rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年8月18日 金正恩の台風被災地再視察を報道

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が先の台風6号により農耕地に浸水被害を受けた江原道安辺郡五渓農場(音訳)を視察し、「台風による農作物被害をいやすための事業を現地で指導」したことを伝える記事を掲載した(視察日は記載せず)。同記事の骨子は、次のとおりである。

  • 同行者:金徳訓総理、趙勇元秘書、金在龍秘書、朱哲圭副総理・農業委員長、金予正副部長、金光革空軍司令官
  • 視察・指導状況:「被害復旧実態についての総合報告を受けられ・・農業技術的対策を立てた状況について具体的に了解」、「農作物生育状態を改善するための改善するための対策として朝鮮人民軍空軍部隊のヘリコプターと軽輸送機を動員するよう組織され、農薬散布事業を自ら組織指揮」、「金正恩同志の命令を受けた朝鮮人民軍第2623軍部隊飛行士たちは・・人民の軍隊としての本分と絶対的使命に忠実を尽くす一念を抱いて即時飛行任務に進入し当該浸水面積に対する農薬散布を成果裡に実施」
  • 金正恩の軍に対する称賛・評価:「稲の栄養状態を改善する上で大きく寄与した人民軍軍人に感謝を表示」、「戦場において勇敢であるだけでなく、・・人民の利益を擁護し、国の財産を保護し、穀物生産にも貢献しようとする我が軍人の強烈な精神世界、これがまさに朝鮮人民が帯びている固有の体質であり、また当然に守るべき道理であり本分である」、「我が軍隊は、人民の福利を守ることで一寸の譲歩も知らない真正な人民の従僕にならなければならない」
  • 金正恩の今次復旧活動への軍動員目的:「(軍人が)自らの本来の使命と任務についてより深く自覚するよう鼓舞推動すること」と「当該地域人民と農業指導機関幹部が軍人の闘争姿勢を模範にして自分が住む地域の大切な土地を心を込めて管理ししっかりと整えていくように教育覚醒すること」にあった。「(その結果、軍は)無限の忠実性と闘争気質を再度余すところなく見せてくれた」と「重ねて満足を表示」
  • 今後の取り組み課題:「浸水被害を受けた該当農場において・・今年の農事を安全に結束するためにすべての力を総結集しなければならない」、「農業部門のすべての幹部と勤労者も今年の穀物生産目標を必ずや占領するための闘争に再度総決起し災害性気候による被害を最小化し、農作物の安全な生育を保障するための施肥管理を科学的に内実のあるように実施することにより、全国のどこの農場でも多収穫の成果を収めなければならない」、「全国家的に(自然災害)被害防止対策と危機対応能力をより徹底して備えることについて再度強調・・いかなる災害性気候にも主動的に対処していけるよう確固として準備しなければならない」

 同記事に見られる最大の特徴は、災害復旧そのものよりも、それに代表される民生支援活動における軍の役割を称賛・強調することに重きを置いていることである。金正恩の名を受けての空軍機による農薬散布(空軍司令官が同行していることからして、事前に計画されていたことは明らか)は、それを改めて強調するための演出であったとさえ感じられる。

 自然災害の発生を契機に金正恩の復旧活動指導をアピールするのは、従前からの常套的宣伝方法といえるが、今次記事で、それよりも軍の民生支援という役割・機能を強調しているのは、何故だろうか。

 とりあえず、二つの仮説が考えられる。第一は、一般人民の中にこのところの「軍事偏重」路線に対する不満・疑念が高じているため、それを慰撫するという狙いである。第二は、軍の一般社会に対する姿勢に問題が生じている(例えば、住民への圧迫・略奪など)ため、それを戒めるという狙いである。あるいは、両方の狙いが共に込められているのかもしれない。

 ただ、いずれにせよ、当面は、かねて予定されていた米韓合同軍事訓練が開始されることに加え、国連安保理北朝鮮人権問題に関する協議が開催されたことへの反発、そして何よりも日米韓の3国首脳会談結果への対応の必要性などもあって、北朝鮮としては、改めて相当の軍事的対抗措置を講じることになろう。憶測を逞しくするなら、同記事は、そうした軍事活動の活発化を見越した上で、それに対する人々の不満・反発を「最小化」するために、「決して人民生活を無視しているわけではありませんよ」とのメッセージを予め発したものともいえよう(余りに考えすぎかもしれないが)。