rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年6月26日 「6・25」に際し反米群衆集会を開催

 

 本日の「労働新聞」は、朝鮮戦争の開戦記念日にあたる6月25日、平壌市内の祖国解放戦争勝利記念館教養(?)広場において、「6・25米帝反対闘争の日 平壌市群衆集会」が開催されたことを伝える記事を掲載した。

 会議には、李日換党秘書(宣伝扇動担当)、金英換平壌市党責任秘書、李斗城党(宣伝扇動)部長をはじめ「勤労団体、市内の機関、工場、企業所(の)幹部、勤労者、青年大学生」が参加し、平壌市人民委員会委員長、江東地区炭鉱連合企業所支配人らが演説を行ったという。

 演説では、「この血に染まった歴史が再び繰り返されないようにするため、いかなる勢力であれ我が国家の安全を侵略しようとするなら必ず凄絶な対価を払うことになるということをはっきりと分かるようにするため、政治思想的力、軍事的強勢をくまなく強化していかなければならない」「すべての人民が米帝国主義者と階級的仇敵の侵略的本性を一時も忘れず透徹した主敵観によってしっかりと武装するよう反帝反米階級教養の度数をより高めていく」ことなどが主張されたという。

 韓国の報道では、6月25日に際しての反米行事は、2018年の米朝首脳会談を契機に中断されて以降、5年ぶりの再開であるという。

 このことは、長期的に見れば、北朝鮮が、昨年のバイデン政権発足後、1年余りの間、状況・対応を見極めた上で、いよいよ、対米対決姿勢を鮮明化したことを示すものといえよう。今になって回顧すると、本年1月19日の第8期第6回政治局会議における「ミサイル・核実験モラトリアム中断の検討」表明から3月24日の「大陸間弾道弾『火星砲17』発射」(と報道)の時期が、そうした姿勢への屈曲点であったと考えられる。

 ただし、そうした対米対決姿勢は、いまだフルスロットルで演出されているわけではないし、いわんや軍事的次元での実際的な対決行動を意味するものではないと考えられる。

 そのことは、今次集会の動員規模、開催場所、出席幹部の顔ぶれなどが、重要記念日などに際し金日成広場に多数の市民を動員し党政府軍の高位幹部を網羅して開催される報告大会に比すると、いずれもかなり低いレベルにとどめられている上、発言も党高官による「報告」ではなく、各界代表の「演説」だけであることなどからもうかがえるところである。

 また、その演説内容も、前述のとおり、米国との対決そのものを訴えるというよりは、戦争抑止力の重要性を再確認した上で、思想教育の徹底を訴える点に重点が置かれており、むしろ、内向きの印象が強いものとなっている。

 そうした中で注目されるのは、「主敵観」という表現が用いられていることで、韓国でも尹政権発足後、軍において北朝鮮に対する「主敵」との表現の復活が伝えられていることと平仄を合わせた動きともいえる。

 北朝鮮にとって、米韓が一致して北朝鮮に敵対的というのは(実際の軍事的圧迫行動などを伴わない限り)、少なくとも国内の思想引き締めという観点においては、それなりにやり易い状況なのではないだろうか。

2022年6月25日 コロナ新規発熱者が1万人以下に減少

 

 本日の「労働新聞」に掲載の国家非常防疫司令部の「通報」によると、6月23日午後6時から24日午後6時までのコロナ感染症新規発熱者(原文では「有熱者」と表記)の数は、9610余人であり、5月中旬に「通報」が公表された後、初めて1万人を下回った。5月中旬のピーク時には連日20~30万人台を記録していたことと比較すると、1月余りで顕著かつ順調に減少していると言える(下表参照)。

 ただし、そうは言っても、これは人口比で考えると、日本で言えば5万人近い数字に相当する。また、これまでの発熱者総数は前記「通報」で470万人を突破し、人口の約19パーセントに達した。いまだコロナの蔓延が抑制された状態にあるとは言えないであろう。

 更に不可解なのは、死者数で、6月15日に1人(累計で73人)と発表されて以来、報道がない。これだけの発熱者(=感染者と考えれば)に対して、これしか死者が出ないというのは、北朝鮮で蔓延しているのが世界的に伝播している新型コロナと同じウイルスであるとするなら、到底、ありえないことと言わざるを得ない。

 しかも、北朝鮮では、一般住民のレベルではこれまでワクチン接種がまったくなされておらず、感染者の治療についても、高麗薬(漢方薬のこと)の活用などが強調されており、おそらくエクモといった高度の治療機器もほとんど存在しないと考えられる。そうした状況で、仮に現在の日本の致死率(多分、0.1パーセント程度?)と同程度まで抑えたとしても、数千人規模の死者が出ていることになる。また、日本も、蔓延初期の致死率は1パーセント前後はあったと記憶しているので、それを当てはめれば、数万人規模ということになる。

 北朝鮮のコロナ蔓延状況については、今後とも、リバウンドの可能性も含め、注視が必要であろう。

コロナ感染状況に関する国家非常防疫司令部の通報骨子
14日以降の期間は前日18時~当日18時。死者を除く人数は「〇〇余名」と表記
             
期間 新規発熱者 死者 完治者 治療中 発熱者累計 死者累計
5月12日 18000       350000 6
5月13日 174440 21 81430   524440 27
5月14日 296180 15 252400 324550 820620 42
5月15日 392920 8 152600 564680 1213550 50
5月16日 269510 6 170460 663910 1483060 56
5月17日 232880 6 205630 691170 1715940 62
5月18日 262270 1 213280 740160 1978230 63
5月19日 263370 2 248720 754810 2241610 65
5月20日 219030 1 281350 692480 2460640 66
5月21日 186090 1 299180 579390 2646730 67
5月22日 167650 1 267630 479400 2814380 68
5月23日 134510 0 213680 400230 2948900 68
5月24日 115970 0 192870 323330 3064880 発表なし
5月25日 105500 0 157020 271810 3170380 発表なし
5月26日 100460 1 139180 233090 3270850 69
5月27日 88520 発表なし 118620 203000 3359380 発表なし
5月28日 89500 発表なし 106390 186110 3448880 発表なし
5月29日 100710 1 98290 188530 3549590 70
5月30日 96020 0 101610 182940 3645620 発表なし
5月31日 93180 発表なし 98350 177770 3738810 発表なし
6月1日 96610 発表なし 108990 165390 3835420 発表なし
6月2日 82160 発表なし 93830 153720 3917580 発表なし
6月3日 79100 1 86100 146720 3996690 71
6月4日 73780 発表なし 82030 138430 4070480 発表なし
6月5日 66680 発表なし 77540 127620 4137160 発表なし
6月6日 61730 発表なし 74100 115240 4198890 発表なし
6月7日 54610 発表なし 66550 103300 4253510 発表なし
6月8日 50860 発表なし 60470 93690 4304380 発表なし
6月9日 45540 発表なし 55250 83980 4349920 発表なし
6月10日 42810 発表なし 49640 77150 4392730 発表なし
6月11日 40060 1 46040 71160 4432800 72
6月12日 36710 発表なし 42650 65230 4469520 発表なし
6月13日 32810 発表なし 40260 57780 4502330 発表なし
6月14日 29910 発表なし 35380 52310 4532240 発表なし
6月15日 26010 1 32090 42630 4558260 73
6月16日 23160 発表なし 28430 40960 4581420 発表なし
6月17日 20360 発表なし 24920 36390 4601790 発表なし
6月18日 19310 発表なし 21930 33780 4621110 発表なし
6月19日 18820 発表なし 21060 31540 4639930 発表なし
6月20日 17250 発表なし 19520 29270 4657190 発表なし
6月21日 15260 発表なし 18540 26000 4672450 発表なし
6月22日 13100 発表なし 16480 22620 4685560 発表なし
6月23日 11010 発表なし 13890 19740 4696580 発表なし
6月24日 9610 発表なし 12050 17300 4706190 発表なし

 

2022年6月24日 党中央軍事委員会第8期第3回拡大会議の概況を報道

 

 本日の「労働新聞」は、21日から23日まで開催された標記会議の概況を報じる記事を掲載した。結論を先に書くと、昨日までの報道の焼き直しを出ず、具体性もないのだが、その骨子は、次のとおりである。

  • 会期:6月21日~23日
  • 参加者等:金正恩が「会議を指導」。中央軍事委副委員長朴正天と委員が参加、党中央委員会該当部署幹部、党朝鮮人民軍委員会執行委員、国防省指揮メンバー、朝鮮人民軍大連合部隊軍政指揮官が傍聴
  • 主な決定事項:① 中央軍事委副委員長の増員を決定、李炳哲を選挙(→朴正天との2人体制に)、②各級軍事委員会の機能と役割を高めるための重大事項を討議、決定、③本年上半期の軍関係各機関の活動を総括、④各機関の強化改善策(共和国武装力全般に対する党の領導を全面的により強化、軍事技術強軍化を強力に推進するための戦略戦術的課題、当面の国防建設任務を確定、我が党国防政策の徹底した実行を担保するための組織政治的対策を決定)、⑤前線部隊の任務追加(軍事委副委員長の指導による研究討議に基づき、「前線部隊の作戦任務に重要軍事行動計画を追加することとし、党中央の戦略的企図に即して国の戦争抑止力を一層拡大強化するための軍事的担保を立てることで提起される重大問題を審議、承認し、このための軍事組織編制改編案を批准」)。⑥部門別課題を強調、国家防衛事業全般で堅持すべき諸般原則を闡明
  • 金正恩の発言内容
    • 現状認識:朝鮮人民軍の絶対的力と軍事技術的強勢を確固として維持し、不断に向上させていくことを必須的に要求している
    • いかなる敵も圧勝する強力な自衛力を万般に固めることで偉大な我が祖国の尊厳と偉大な我が人民の安寧を頼もしく保衛しなければならない
    • 軍のすべての軍事政治活動において堅持すべき重要原則について結論
  • 今次会議の意義
    • 軍事事業に対する党的領導を一層深化
    • 革命軍隊の戦闘力を非常に強化

 結局、今次会議で具体的に示された注目点は、昨日の本ブログでも紹介したとおり、決定事項⑤の前線部隊への「任務追加」及びそれに伴う「編成改編」ということになる。表現はかなりもってまわったものであるが、「戦争抑止力強化」という言葉を入れることで、戦術核兵器の配備を示唆しているのであろう。

 また、④は、③の総括結果を受けて、そこで示された問題点改善などの対策として打ち出されたものと推測される。そこには、党の指導力を強化するための措置と軍事技術面の措置が含まれているようである。⑥は、何を指すのかよく分からない。なお、②については、道、市・郡などの軍事委員会の機能強化を図ったものと見られ、各地方での経済建設や災害時における軍の動員・活用に関連するものではないかと考える(具体的根拠はないが)。

 世間で注目の「核実験」については、直接的な言及はなかった。同会議では取り扱われなかったのかもしれないし、決定④の中の「当面の国防建設任務」といったところに含まれているのかもしれない。いずれにせよ、具体的な実施時期が同会議で決定されたとは考え難く、最終決断は金正恩の胸三寸に留保されていると見るべきだろう。

2022年6月23日 中央軍事委員会拡大会議2日目状況

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議2日目(22日)の状況に関し、金正恩が「会議を指導」したとした上で、討議事項等を次のとおり報じた。

 討議事項:①「党の軍事戦略的企図に沿って、朝鮮人民軍前線部隊の作戦任務を追加確定し作戦計画を修正する事業」、②「重要軍事組織編制改編と関連した問題」

 総参謀部による研究討議・文書作成:中央軍事委副委員長(複数)の指導の下、「該当問題に対する研究討議を実施し、その結果を総合する重要文献を作成する事業」を実施。中央軍事委に「重要問題研究討議結果と文献作成状況を報告」

 金正恩発言:「前線部隊の作戦能力を高めるための重要軍事的対策を講じている党中央の戦略的見解と決心を披歴」、「この事業の重要性を強調しつつ、その実行で提起される諸般原則と課題と方途を闡明」

 部門別課題:「党の革命的軍事路線と戦略的方針を徹底して貫徹するための部門別課題を再画定」

 以上の報道を総合すると、これまでのところ最大のテーマは、「前線部隊への作戦任務追加」であろう。金正恩の発言は、それに関するものであり、総参謀部が行っているとされる作業も、その具体化のためのものと推測される。

 そして、それとは別に、「軍事組織編制」に関する何らかの改変措置及び各部門の任務・機能などの調整などが講じられたのであろう。

 ここで焦点は、前線部隊に追加された任務とは何かということで、当然、「戦術核戦力」の行使が連想される。その理由は、去る4月17日に報道された「新型戦術誘導武器」の試験発射(金正恩参観)に際し、同兵器に関して「前線長距離砲兵部隊の火力打撃力を飛躍的に向上させ、朝鮮民主主義人民共和国戦術核運用の効果性と火力任務多角化を強化する上で大きな意義を有する」ことが明らかにされていたからである。

 「討議事業は引き続き進行されている」とのことであるので、具体的な結論提示は、明日以降を待つことになる。

 なお、2日目の会議状況を示す写真では、金正恩の左隣(向かって右隣)には終始、李炳哲(党秘書・軍需担当)が座っており、昨日のブログで推測したとおり、軍事実務的な議事に際しては、趙勇元は出席していないようである。

2022年6月22日 党中央軍事委員会第8期第3回拡大会議を開催(修正版→下線部)

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が21日から開催されていることを伝える記事を掲載した。

 同記事によると、会議には、金正恩が「参席」し「司会」したとされる(昨年6月11日開催の中央軍事委第8期第2回会議の際は、「会議を指導」と表記)。

 会議には、中央軍事委員が参加したほか、党中央委員会該当部署幹部、党朝鮮人民軍委員会執行委員、国防省指揮メンバー、朝鮮人民軍大連合部隊軍政指揮官が傍聴したという。傍聴者の範囲は、前回会議と表記はやや異なるが実質的にはさほど変わらないと思われる。

 ちなみに、添付の写真では、金正恩の左隣(向かって右隣)に趙勇元(組織秘書)が座っているものと、李炳哲(党秘書・軍需担当?)が座っているものがある(右隣は、一貫して朴正天)。途中で規模をやや縮小し、趙勇元は退席したのではないかと推測される。

 議題については、①中央をはじめとする各級軍事委員会の「事業体系と秩序、実態」を分析総括し、その「機能と役割をより高めるための重要課題」を討議、②2022年上半期の「国家防衛事業全般を総括し、鍵となる当面の国防建設任務を確定」、③「党の軍事路線と主要国防政策を徹底して貫徹するための問題」、④国防省、総参謀部、各級部隊等の「党組織の軍事政治活動状況を総括し、朝鮮人民軍の前に提起された重要な戦略戦術的課題を策定」することなどをあげている。

 このうち、②は前回会議でも同様のものがあり、6月に開かれる会議での年間の中間総括と今後の課題策定という意味で分かりやすい。一方、①は各級党委員会の軍に対する指導体制について、④は軍内党組織の在り方について、それぞれ、もう少し長期的・組織構造的な次元で何らかの改革を企図するものとも考えられる。世間で注目の核実験等については、取り扱われるとすれば、③に含まれるのであろうか。

 会議は2日目以降に継続される模様であるが、中央軍事委員会が2日間以上にわたって開催されるのは異例であり、それだけ今次会議が実質的・重要なものとみなされていることがうかがえる。ただ、それは、必ずしも「核」問題の策定を意味するものではなく、党軍関係の在り方などにかかわる問題であるとも考えられる。趙勇元の出席がそれをうかがわせる根拠といえる。また、上記報道に、以前の中央軍事委の議題報道で頻出した「戦争抑止力」といった表現が見られないことも、核問題が(少なくとも公開的には)取り扱われない可能性を示唆する要素といえよう。

 いずれにせよ、結果が大いに注目される。

2022年6月21日 社説「徳と情の力、集団主義威力で試練に打ち勝ち勝利の明日に向けて信念高く進もう」

 

 標記社説は、「先般、敬愛する総秘書同志(金正恩)が親しく家庭内で準備された恩情のこもった薬品を(急性腸内性伝染病が蔓延した)海州市の住民世帯に送って下さった」ことをとりあげて、「(そうした)敬愛する総秘書同志の崇高な志を奉じて共産主義美徳と美風をより高く発揮し、徳と情の力、集団主義威力で今日の国難を突破し我々式社会主義建設の全面的発展を加速化していこうとの我が人民の決心は確固としている」と主張するものである。

 そして、人々に対しては、「誰もが家事より国事をまず考え、個人の利益より社会と集団の利益を貴重なものとみなす確固たる観点を持たなければならない」と訴えている。

 中でも、幹部に対しては、「美徳と美風を発揮して集団主義を具現する上で先駆者になるべき人は、幹部である」として、率先垂範を呼びかけている。

 そして、社説末尾では、「皆が我が革命の不敗の前進動力である徳と情の力、集団主義威力を総爆発させ、醸成された難局を打開し、我々式社会主義の勝利的前進を加速化していこう」と改めて呼びかけている。

 なお、本日の「労働新聞」は、同社説に続ける形で、「敬愛する総秘書同志の崇高な志を奉じ、各地幹部と勤労者が黄海南道の伝染病発生地域住民世帯を積極支援」とのサブタイトルを付し「互いに助け導く美しい国風がより高く発揮されている」と題する記事も掲載している。

 こうした一連の報道からは、黄海南道での腸性伝染病蔓延に対する金正恩の薬品送付を皮切りとして、党中央勤務員による支援→全国各地からの支援へと「美風」発揮の広がりを演出し、それを契機として、社会全般に日々の行動における「家事より国事」「個人の利益より社会・集団の利益」重視へと価値観・行動基準の変化を実現しようとの意図がうかがえる。

 「家事より国事」の呼びかけは、かねてなされてきたものであるが、この時期にこうしたキャンペーンが展開された背景には、コロナの国内発生による統制強化などの結果、生活上の不便が深刻化したために、人々が背に腹は代えられなくなって、「国事より家事」「社会・集団の利益より個人的利益」を重視する傾向が顕著化しているとの状況があるのかもしれない。そして、そうした状況で、とりわけ「家事」「個人的利益」の確保に狂奔しているのは、「国事」「社会・集団の利益」を左右しうる権限を持つ幹部であるとも考えられる。

 また、同社説では、「徳と情の力」を「革命の前進動力」と称した最後の部分も注目される。要するに、個人の犠牲的努力が革命推進の動力であるということで、ここに北朝鮮体制の根本的な無理が示されているように思われる。

2022年6月20日 論説「党決定は革命の要求であり人民が与える至上の命令である」

 

 標記論説の掲げる「党決定」というのは、当面、先の中央委員会全員会議の決定を念頭に置いたもののようで、まず、「党中央委員会第8期第5回全員会議の決定を徹底して貫徹することは、時代と革命の切迫した要求としていっそう浮き彫りになっている」とした上で、「(同)全員会議で提示された戦闘的課題はその一つ一つが現実性と可能性を具体的に打算し作成されたものだ」と主張している。

 また、その意義について、「(同)決定には人民の生命安全をしっかりと守り生活を安定向上させるため至急に解決すべき切迫した問題が反映されている」との事情を挙げた上で、「人民の天のような信頼を無条件的に守り、人民の期待に忠実に報いなければならないというのが我が党の崇高な志である」ことを、その貫徹の必要性の根拠として挙げている。

 また、その実践上の課題としては、「今日、党決定を徹底して貫徹する上で第一に警戒すべきことは、無責任と無能力、消極性である」として、幹部の奮起を訴えている。

 先の中央委員会全員会議については、特段の新たな路線・政策も示されず、何のための会議であったのか、その決定の具体的な意味が何であったのか、よく分からないままであったが、この論説を読んで、それに対する一つの答えを得たような感じを受けた。

 それは、端的に言えば、9つの分科会の場で、それぞれの部門の担当者に自ら、コロナ発生等の現状を踏まえた下半期の個別・具体的な課題を再設定させることであった。「現実性と可能性を具体的に打算」という表現がそれを示していると考えられる。

 そして、そうした課題は、おそらく、産業構造の強化といった長期的な目標よりは、当面の人民生活の「安定向上」を主たる目標にしたものであったのであろう。更に言えば、「至急」あるいは「切迫した」という言葉が繰り返されていることからすると、それは、実際には「向上」よりも「安定」が中心であったと考えられる。「党」すなわち、金正恩は、そうした「安定」を回復できなければ「人民の天のような信頼」を失うとの危機感を持って、同会議に臨んだとも考えられる。

 また、現状の問題としては、幹部の「無責任、無能力、消極性」がそうした問題解決のネックとなっているとの認識があるのであろう。

 同全員会議で異例にも「組織問題」が第1議題とされたことについて、その背景・理由が注目されたが、以上のような見方に基づくなら、今次会議のハイライトである分科会での協議に先立ち、それを指導する各部門の幹部陣容を整理しておく必要があったからと説明することができよう。「無責任」等の評価を下された更迭寸前の幹部にそうした協議の運営を託すわけにはいかないからである。

 果たして、北朝鮮が新陣営の下、下半期において、そうして設定された課題を実現することができるのか、大いに注目されるところである。