rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年6月21日 社説「徳と情の力、集団主義威力で試練に打ち勝ち勝利の明日に向けて信念高く進もう」

 

 標記社説は、「先般、敬愛する総秘書同志(金正恩)が親しく家庭内で準備された恩情のこもった薬品を(急性腸内性伝染病が蔓延した)海州市の住民世帯に送って下さった」ことをとりあげて、「(そうした)敬愛する総秘書同志の崇高な志を奉じて共産主義美徳と美風をより高く発揮し、徳と情の力、集団主義威力で今日の国難を突破し我々式社会主義建設の全面的発展を加速化していこうとの我が人民の決心は確固としている」と主張するものである。

 そして、人々に対しては、「誰もが家事より国事をまず考え、個人の利益より社会と集団の利益を貴重なものとみなす確固たる観点を持たなければならない」と訴えている。

 中でも、幹部に対しては、「美徳と美風を発揮して集団主義を具現する上で先駆者になるべき人は、幹部である」として、率先垂範を呼びかけている。

 そして、社説末尾では、「皆が我が革命の不敗の前進動力である徳と情の力、集団主義威力を総爆発させ、醸成された難局を打開し、我々式社会主義の勝利的前進を加速化していこう」と改めて呼びかけている。

 なお、本日の「労働新聞」は、同社説に続ける形で、「敬愛する総秘書同志の崇高な志を奉じ、各地幹部と勤労者が黄海南道の伝染病発生地域住民世帯を積極支援」とのサブタイトルを付し「互いに助け導く美しい国風がより高く発揮されている」と題する記事も掲載している。

 こうした一連の報道からは、黄海南道での腸性伝染病蔓延に対する金正恩の薬品送付を皮切りとして、党中央勤務員による支援→全国各地からの支援へと「美風」発揮の広がりを演出し、それを契機として、社会全般に日々の行動における「家事より国事」「個人の利益より社会・集団の利益」重視へと価値観・行動基準の変化を実現しようとの意図がうかがえる。

 「家事より国事」の呼びかけは、かねてなされてきたものであるが、この時期にこうしたキャンペーンが展開された背景には、コロナの国内発生による統制強化などの結果、生活上の不便が深刻化したために、人々が背に腹は代えられなくなって、「国事より家事」「社会・集団の利益より個人的利益」を重視する傾向が顕著化しているとの状況があるのかもしれない。そして、そうした状況で、とりわけ「家事」「個人的利益」の確保に狂奔しているのは、「国事」「社会・集団の利益」を左右しうる権限を持つ幹部であるとも考えられる。

 また、同社説では、「徳と情の力」を「革命の前進動力」と称した最後の部分も注目される。要するに、個人の犠牲的努力が革命推進の動力であるということで、ここに北朝鮮体制の根本的な無理が示されているように思われる。