rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月21日 論説「社会主義企業責任管理制の実施と国家的指導管理の改善」

 

 「社会主義企業責任管理制」は、金正恩時代における「改革」的経済施策の代表ともいえる制度であり、それが実際のところどのようなものであり、どのように運営されているのかは、北朝鮮分析における重要な着目点の一つであろう。

 本論説は、同制度の企業における運営の在り方そのものではなく、企業を指導する立場にある国家機関において、同制度が適切に運営されていくために何をなすべきかを論じたものである。やや長くなるが、その内容を紹介したい。

 論説は、まず「社会主義企業責任管理制」について、「工場、企業所、協同団体が生産手段に対する社会主義的所有に基づき実際的な経営権を持って、企業活動を創発的に行い党と国家の前に帯びた任務を遂行し、勤労者が生産と管理において主人としての責任と役割を尽くすようにする企業管理方法」と意義付けた上で、それが適切に実施されるためには、「現実発展の要求に即し国家経済指導機関の指導管理を絶え間なく改善」することが必要であるとして、そのための要点を次のとおり掲げている。

 第一にあげる要点は、「(同制度が)実際の効果を生み出すための事業を目的指向的に進行していくこと」、すなわち現実に即した目標の設定である。そのためには、「経済実態に対する掌握から生産資源の統一的な利用に至るまで経済法則の要求に即して目標を正確に立て、指導管理を科学的に組織」することが必要であるとする。そして、「すべての問題をいっぺんにすべて解決しようとすれば力量を分散させるだけで、どの一つの問題もまともに解決できない」と戒めた上で、「部門や地域、単位そして周囲の条件と環境、軽重をしっかり打算して目標実現のための段階を合理的に設定」することを求めている。

 第二にあげる要点は、「企業体が企業活動を主動的に、創発的に行っていけるよう社会経済的環境と条件を充分に保障すること」、すなわち同制度の円滑な運営に必要な環境の整備である。その内容は多岐にわたり、「社会的雰囲気を醸成」にはじまって、「管理人材の養成と(企業)幹部の経済実務水準を高めるための事業」、「経済指導を下部に近づけ経済作戦と指揮を円滑に行えるよう機構体系と事業体系を整備」、「知識経済の下部構造を強力に構築」、「重要指標の物資と動力保障、金融及び財政的条件、生産物流通条件をしっかり保障」することなどが上げられるほか、「必要な法と規程、細則などを作成実施し、その執行に関する監督統制事業を正しく行うことが重要」とされ、最後には「実施過程で成し遂げられた成果と経験を一般化し規定を不断に補充更新」することにも及ぶ。

 第三にあげる要点は、「経済的テコを正しく利用し、それが企業体の生産活性化と拡大再生産に積極的に適用されるようすること」である。すなわち「計画、財政、金融、価格のような経済的テコを互いに密接な連関の中で総合的に利用する」ことが必要であるとし、「特に経済的テコを操縦する事業を統一的に把握し、国家的な計画、財政、金融、価格機関の間の協同作戦と配合作戦を恒久的に強化すること」が「必須的課題」であるとしている。

 以上煩雑をいとわず国家指導機関に求められる事項を列挙したが、そこからとりあえず読み取れるのは、「社会主義企業責任管理制」とは言っても、その運営にあたっては、国家機関が果たすべき役割が非常に大きいということである。もちろん、同制度の下で、過去に比較して企業により多くの権限を付与されたことは否定できないが、それにせよ、国家の経済運営全体という視点で見ると、様々な目標・計画の設定から価格の設定に至るまで、国家機関が果たすべき役割が圧倒的という印象が否めない。

 人材の面でも、論説の表現から推測すると、企業側に自体で運営を適切に行うだけの力量が不足しているようにみえる。

 結局、企業に託されているのは、国家機関が制定した目標の実現に向けて、これも国家機関が制定した法律・規程・細則の範囲内において、自らの生産を活性化し、拡大再生産で成果を上げる(つまり生産能力を向上させる)ことにとどまるのではないだろうか。

 ただ、もう一つの注目点として指摘できるのは、少なくとも現在までのところ、同制度が細部にわたるまで確固不動のものとして確立されているわけではなく、いまだ形成過程にあるということである。そのような意味からも、上述の結論は当面のものであって、同制度の実際の運用については、継続的な注視が必要ということであろう。