rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月22日 論説「着想力を持った幹部だけが単位事業を主導していくことができる」

 

 金正恩にとって、守旧的幹部の仕事ぶりの改善が喫緊の課題になっているとみられる。では理想はどのようなスタイルか。それを示したのが本論説といえよう。

 論説は、まず、「着想力」について、「事業を革新的に設計し、構想する能力」と意義付け、それを欠く者に対して「託された事業に対する深い思索と探究がなく、命令ばかりしながら旧態依然として席を守っている人は、使い走り人であって、幹部(イルクン、直訳すると「働き手」)と言うことはできない」と厳しく批判している。

 その上で、その「着想力」がいかに発揮されるべきかについて、まず「幹部の着想力の出発点、基準は党の思想と意図」でなければならないと枠をはめる。ただし、ここで言う「党の思想と意図」は、その具体例として「世界的な発展趨勢と動向を透察」した金正恩の決定が上げられていることから、従前からの原理原則と言った意味ではなく、金正恩の示す新たな方向性・目標などを念頭に置いたものと考えるべきであろう。

 また、「着想の目的は人民の要求と利益を実現することにある」としている。これは、「金正恩の施策の究極の狙いはすべて人民への奉仕のため」との北朝鮮の主張を前提にすれば、「目的は金正恩の指示・指導を実践すること」と言うのと事実上同じ主張である。

 最後に、この論説のさわりと思われるのが「幹部の着想は世界的なものへと指向されなければならない。何かを一つ着想するにしても大胆で太っ腹に行い、他人が想像さえできないものを考え出すことができてこそ世界的なものを創造することができる」との主張である。ただし、「大胆に着想するからと言って、荒唐なものを出してはいけない。着想は科学的かつ現実的なもの」でなければならないと釘もさしているが。

 これまでも本ブログで論じてきたところであるが、金正恩は、様々な局面において、かなり大胆な「突破」を実現し、その成果を誇示することによって国民の精神を鼓舞し、国策に積極的に取り組ませる、ということを基本的戦略にしていると考えられる(先般の白頭山登頂時に構想した「作戦」なるものがあるとすれば、それも、以上のような戦略に沿ったものであろう)。

 金正恩にとって、そのような戦略を推進する上で障害と映っているのが、従前の常識・基準にとらわれて金正恩の示した目標を「無理」と思い込み、果敢に取り組もうとしない幹部や専門家たちではないだろうか。

 最近の論調の多くが、そのような金正恩のいら立ちを反映して、幹部に対し、与えられた目標に対し、「できるか、できないか」ではなく、「いかに実践するか」を考えることを強く求めたものになっているように感じる。

 本論説も、そのような流れを受けて、「いかに実践するか」を考える力を「着想力」と名付け、とりわけ、「大胆」で「他人が想像さえできないものを考え出すこと」すなわち従前の常識や慣例から脱却した新たな発想を推奨するものと考えられる。「新しい酒は新しい革袋へ」ではないが、金正恩の示す破格的な目標を実現するためには、それぞれの現場においても、破格的な方法論が必要とされているのであろう。