rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月21日朝鮮中央通信「すべてのことには、時と場所があるというものだ」   ~GSOMIA問題への影響~(11月23日記)

 

 『労働新聞』への掲載有無の確認のため紹介が遅れたが(予想通り未掲載)、北朝鮮がまたも韓国のラブコールに冷水で答えたのが本記事である。

 記事によると、去る11月5日、文大統領から金正恩委員長あてに今月25日から釜山で開催されるアセアン(と韓国の)特別首脳会議への出席を招請する親書が送られ、その後も、金正恩が出席できないなら「特使でも」との要請を何回も繰り返してきたという。

 それに対する記事の結論は、「南側の期待と誠意はありがたいが、国務委員会委員長が釜山に出かけるべき妥当な理由をどうにも見いだせないことを理解してくれることを望む」というもので、ここだけ見ると、丁重なお断りのようになっている。しかし、記事全体としては、韓国側の対応の不誠実さ、不適切さを繰り返し厳しく批判しており、そのさわりは、次のようなものである。

南朝鮮当局も北南間で提起されたすべての問題を依然として民族共助ではなく外勢依存によって解決しようとの誤った立場から脱皮できていない

南朝鮮保守勢力は・・・我々に対する非難と攻撃にいつよりも熱を挙げている

・このような時に北と南が会っていったい何ができ、そのような出会いに果たしていかなる意味があるのか

・民族の運命と将来問題にいかなる関心もない他国の客たちを騒がしく呼んでおいて、彼らの前で北と南のいかなる姿を見せたいのか問わざるを得ない

板門店平壌白頭山でした約束が一つも実現されていない現在の時点で、形式だけの北南首脳会談は、むしろ行わないほうが良いというのが我々の立場である。

 要するに、南北関係が膠着を続ける(更に言及はしていないが、米朝交渉が切迫した)段階にある現在の状況は、南北首脳会談の開催にふさわしい「時」ではないし、アセアン韓国首脳会談という国際会議もそれにふさわしい「場」ではない、そのような時・場への招請に誠意を認めることはできず、したがって、それに応えることはできない、というものであろう。

 北朝鮮の肩を持つわけではないが、以上の主張には、一理があるように感じられる。これまでの釜山アセアン会議への金正恩訪問に関する韓国内の報道に対しては、私自身、そもそも実現可能性のある話なのかと非常な違和感を抱いていたところである。この時期に、しかも国際会議に金正恩を呼んで、「外交ショー」以上の意味があるとは考えられないし、そもそも金正恩がそこにいくとも思えない。

 では文政権は、そのようないわば無理な企画の実現に何故それほど固執したのか。本ブログの専門を逸脱することになるが、敢えて大胆な観測を述べると、GSOMIA問題との関連があったのではないか。仮に、金正恩(あるいは、その「特使」であっても)の釜山訪問が実現していれば、文政権にとってGSOMIAの終了による対米関係の悪化というマイナス材料を打ち消すないし緩和することができるとの計算があったのではないか。

 そこまでは言えないとしても、今般の文政権による「GSOMIA終了の一時停止」という決定については、米国の「圧力」あるいは日本との水面下の交渉などが主に影響したことは言うまでもないが、本記事がこの時期に出されたことも、結果的に少なからず作用しているのではないだろうか。何故なら、上述のとおり、本記事の内容は、これまで明らかにされていなかった文大統領からの親書の送付や「特使」派遣要請などを暴露したことも含め、文政権を辛辣に揶揄・批判するものであった。韓国の有力保守新聞「朝鮮日報」も、そのような事実関係が示されたことを「国際的な恥」と題する社説で取り上げ、文政権を批判した。その結果、文政権、とりわけその内部で北朝鮮との関係を重視する勢力(おそらくGSOMIA終了を望む勢力と重複すると考えて間違いないであろう)が、その終了の実質1日前という決定的な時期に、強いダメージを受けることになったと考えられるからである。

 そう考えると、北朝鮮は、何故、この時期に敢えてこのような記事を出したのかとの疑問が提起される。GSOMIAの終了如何を見届けた上で出してもよかったのではないか。更に言えば、金正恩は無理としても、せめて「特使」だけでも送ることにしておけば、GSOMIAの終了を導き出すことができたのではないか。あるいは、北朝鮮としては、そのような小手先の方法でGSOMIA問題を左右することはできないと判断していたのか。このほか、一般的な常識(いわゆる「合理的行為者仮説」)には反するかもしれないが、「金正恩招請」への対応は、GSOMIA問題への影響などは念頭に置かれないままに、決定・実行された可能性も否定はできない。

 いずれにせよ、以上の仮説は、いずれも北朝鮮がGSOMIAの延長を望まないとの前提に基づくものである。あるいは、そのような前提から再検討する必要があるのかもしれない。この問題は、もう少し、時間をおいて改めて考えてみたい。