rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

9月26日 漂流韓国人射殺事件コメント

 

 標記事件に関し、当面注目される、①当該韓国人の漂流経緯(本当に「越北」を目指していたのか)、②射殺の決定は誰によってなされたのか、③統一戦線部の「通知文」送付(特に金正恩の「謝罪」表明)の狙い、④同事件が今後の南北関係に及ぼす影響、の4点について、現時点までの報道を前提に、とりあえずの所見を記したい。

 まず①については、韓国軍は、北朝鮮が「越北」と認識していたとしているようだが、どれほど確かな情報なのであろうか。本当に、海流に乗って北朝鮮側にたどりつくというような不確実な方法での「越北」を実行する人がいるのか、にわかに信じがたい。

 ②については、韓国側は北朝鮮の「海軍司令官」までとしているが、それは、「確認できたところによれば、少なくとも」という意味で解すべきであろう。これだけ時間的余裕があったのであるから、党への絶対服従を基本とする北朝鮮軍が独断で「射殺」という重大決定を下すとは考え難い。金正恩まで行ったか否かはともかく、「党中央」には報告がなされていたと考えるべきではないだろうか。その意味で、「対韓部門を委任されている」はずの金与正の関与いかんが注目される。

 ③については、とりあえず「北朝鮮に対する韓国国内世論の決定的悪化・反発を防ぐため」といえるだろう。結果を見ても、文政権及びその支持層は、これで「幕引き」どころか関係改善の契機とするに足るものと満足(歓迎)しているようなので、その狙いは一応奏功したといえよう。なお、通知文は、事実関係については北朝鮮側の行為を極力正当化する形で記述しており、北朝鮮なりにダメージを極小化する工夫をこらしたように思える。憶測であるが、公表前に韓国側(青瓦台)と打ち合わせた可能性もあるのではないだろうか。そこからうかがえるのは、北朝鮮は、韓国との間で、表面的な交流・協力等は状況に即して調節。停止するにせよ、決定的な敵対関係は望んでいないということであろう。

 最後の④については、今後、直ちに文政権の期待するような形で交流・協力の再開が実現するとは考え難いが、やや長期的にみれば、先般の「連絡事務所爆破」以来の「最悪期」から「回復期」に転ずる一つのきっかけになる可能性はあるのではないだろうか。今回の事件がその後の対応(前述のような通知文表現など)も含めて北朝鮮のイメージを更に悪化させるものであることは否定できないが、今次事件よりはるかに凶悪なテロ事件などを経験しつつ南北関係が進展してきたということもまた無視できない歴史的事実であることを忘れてはならないと考える。