rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年4月24日 論説「単位の今日と明日の両方に責任を持つ立場に立って」

 

 標記論説は、企業経営の在り方について、日々の生産目標達成だけでなく将来における生産能力の維持拡大に向けた取り組みを怠らないよう訴えるものである。

 すなわち、「現行生産も重要であるが、それに劣らず重要なことが今日だけでなく明日にも生産正常化、生産活性化の槌音が変わることなくとどろくようにすることである」との主張である。

 それをもう少し敷衍すると、「現行生産課題を日別、月別、分期別、指標別にたがえることなく遂行することも極めて緊張した(困難な)事業である」が、それと並行して、「原料、資材、設備の国産化再資源化比重を高めるための事業、生産工程の現代化、情報化を実現するための事業、自体の科学技術力量を強化する事業」などを推進することである。

 ここでまず注目されるのは、「明日」に向けた課題の筆頭が生産力の向上(「現代化、情報化」)ではなく、維持のための「国産化再資源化」とされていることである。これは、「5か年計画」の「基本種子」である「自力更生・自給自足」の実現に向けた取り組み意志を示すものともいえるが、換言すると、現状のまま手をこまねいていると、明日の生産は保障できないという厳しい状況を反映したものともいえよう。

 同時に、「重要なことは、自体の科学技術力量、人材力量を整備する事業に力を注ぐこと」であり、「警戒すべきことは、単位特殊化と本位主義である」ことを強調している点も注目される。これらの点は、先の党中央委員会第2回全員会議で強調された点であり、前述の生産力の維持・向上という目標を実際に実現するための方法論として提起されていると考えられる。

 ちなみに、「単位特殊化と本位主義」に関連しては、本日の「労働新聞」が「経済事業に対する統一的指導は社会主義国家の基本任務の一つ」と題する論説を掲載している。

 その骨子は、「経済事業に対する統一的指導」が必要であることの理由として、①「経済の計画性と均衡性を徹底して保障するための必須的要求である」こと、②「社会生産物を統一的に掌握し合理的に分配利用するための重要な担保である」ことの2点をあげて、「すべての経済管理幹部は、経済事業に対する統一的指導が社会主義国家の基本任務の一つであることを深く自覚し、内閣責任制、内閣中心制の要求に即して経済指導管理を実施」することを訴えるもので、その中で、「単位特殊化と本位主義」を戒めている。

 なお、同論説は、「朝鮮労働党第8回大会の思想を深く体得しよう」のサブタイトルを付して以前から掲載されてきたシリーズの一つであり、以上の内容に格別の新味はないが、2点ほど付言しておきたい点がある。

 第一は、経済事業に対する「(国家の)統一的指導」をいう場合、同論説に限らず「内閣責任制・内閣中心制」が常に強調されるが、その前提として、「党の領導は、社会主義経済管理の生命線であり、その優越性と生産力を高く発揚するための根本担保である」との考え方が存在することである。つまり、ここでいう「内閣責任制・中心制」は、決して党の指導と対置される概念ではなく、むしろ、それを実現するための方法論として強調されているのであって、内閣の指導に服属すべ対象は、個別の「単位」ないし「部門」であるということである。これまでにも、「内閣責任制」が強調されるたびに、それを党との指導権争いの文脈で解釈する見方が繰り返し示されているようだが、それらは、概ね的外れな分析と言わざるを得ないのではないかと考える。

 第二は、本論説のように「統一的指導」の必要性・当為性を強調する主張は、党の会議をはじめ様々な場で従前から繰り返し示されているが、具体的にそれをいかに実現するかという方法論が示されることは、少ないということである。本論説でも、その点については、「経済管理幹部」の「自覚」を訴えるにとどまっている。それを制度的に担保する方法論を示せないところに。同じ主張を何回も繰り返さざるを得ない原因があるようにも思える。それについては、党中央委経済政策室(室長・全現哲、副総理兼任)ないし非常設経済発展委員会(その実態は不明だが)あたりが中心になって具体策を考究しているとみられるが、具体的にどのような方策が検討されているのか非常に興味がもたれるところである。