rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月13日 政論「より高く、より速く、より輝かしく」(「失うものはない」発言との矛盾)(12月14日記)

 

 13日の「労働新聞」は、「前代未聞の大建設神話で社会主義朝鮮の強勇な気象を万邦に轟かせて下さった不滅の業績 敬愛する最高領導者金正恩同志の聖なる主体108(2019)年革命実録を広げて」との共通題目の下、標記政論のほか、いくつかの関連記事を掲載した。まさに10日の本ブログで紹介した論説の趣旨のとおり、建築物を以って金正恩の権威を体得させようとの狙い即した報道振りである。

 そういう意味で、繰り返しになるが、政論の中のさわりとなる部分を紹介したい。

 「より高く、より速く、より輝かしく! まさにこれが建設の奇跡によって輝く2019年の代名詞である」

 「時代と歴史を代表するにおいて建築ほど威力ある言葉はなく、建築ほど生動的な画幅はない」

 「より高く、より速く飛躍することができる跳躍台は準備された。理想的な見本、模範が各処に立ち上がり、建設の大繁栄期を切り開く建設力量が比べられないほど強化された2019年の建設実録は、そのまま社会主義強国建設の立派な教科書となる」

 これら(特に最後の引用部)は、まさに北朝鮮指導部が住民に認識させたいことであり、同時に指導部自身の認識でもあると考えられる。

 

 以上のような報道振りと、最近、対米関係の文脈の中で繰り返される「我々にはこれ以上失うものはない」旨の高官発言は、明らかに矛盾するものといわざるを得ない。

 上掲「政論」を含め先般来、本ブログでも紹介してきた各種の成果宣伝を散々聞かされてきた北朝鮮住民が、自国の高官が対外向けに「我々は失うべきものは持たない」と発言していることを知れば、大いに驚嘆し、あるいは「自尊心」に欠けると憤慨するかもしれないとさえ思われる。それら対外向け発言が「労働新聞」など国内向けメディアではほとんど報じられない所以であろう。

 どう考えても、そのような発言は、対外交渉用のブラフを超えるものではないであろう。今日の北朝鮮の実情を見れば、「失うものはない」どころか、金正恩の指導の下、国民が営々努力して造営した成果物が北朝鮮の各処に林立しているというのは宣伝だけではないからである。

 我々がそのようなブラフによって動揺するのは、「北朝鮮は対立激化も恐れない」と思い込ませようとの北朝鮮の術策にはまることにほかならないことを銘記すべきであろう。