rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月14日 掲載されない「国務委員会スポークスマン談話」

 

 北朝鮮は、13日、国務委員会スポークスマン談話を発表した。同談話は、米韓の合同軍事演習実施などを捉えて「6・12米朝共同宣言に対する露骨的な破棄」と決めつけ、米国が今後ともそのような態度を改めない場合、北朝鮮だけが忍耐を続けることはできず、「新たな道」を選択せざるを得ないなどと警告して、今後の合同演習実施などに関し、米国の「沈思熟考」や「自重」を要求するものである。

 北朝鮮がこの時期、このような形式・内容の談話を発表した狙いは、米朝交渉に関して米国への圧力を強めることであることは言うまでもない。「新たな道」とか「朝鮮半島情勢が再び原点に戻る」とかの言辞は、米国の対応が北朝鮮にとって望ましいものでなかった場合、北朝鮮が再度、核・ミサイル開発を公然化させるような状況を想起させることを狙ったものと言えよう。

 しかし、そのような言辞は、実際のところどの程度の現実性を持つものであろうか。それを考える上で注目されるのは、同談話が『労働新聞』(少なくとも電子版)には掲載されていないことである。

 そのことは、この談話が純粋に対外向けのものであって、国内の一般国民に知らしめる必要はないと指導部が判断していることを示していると考えられる。と言うことは、同談話で示唆した「新たな道」などの表現が具体的に何を念頭に置いているかは定かでないものの、少なくとも、一般国民全体に大きな影響を与えるような規模・深刻度を持つものではないということを意味しているのではないだろうか。

 仮に、北朝鮮指導部が米朝交渉の「年内」という期限を真に絶対的なものと位置づけており、それが達成できなかった場合には新年早々から対米緊張モードに切り替えることを想定しているとするなら、今から国民に向けて、そのような状況を迎える心理的な準備を促す対応が必要となるのではないだろうか。

 しかし、北朝鮮指導部が今現在、国民に求めているのは経済建設への専念であり、「対外関係緊張の予感」などを植え付けることは無用と考えているからこそ、同談話が掲載されないのではないか。牽強付会な根拠となるかもしれないが、今日の『労働新聞』には、開催中の「全国化粧品展示会」に出品された有力化粧品が写真付きで報道されていた。1か月半後に緊張モードへの転換の可能性が想定されているとして、このような記事が掲載されるだろうか。

 ちなみに、今日の同紙の社説は、「人民軍隊の闘争精神と創造的働きかたを見習ってより高くより早く前進飛躍しよう」と題するものであった。題目だけ見ると、まさに戦闘モード突入準備のようにも見えるが、内容において訴求されているのは、あくまでも軍が動員された経済建設現場で発揮した、無条件絶対の精神で積極果敢に成果を出す働き方に「すべての幹部、党員、勤労者」が学び、それに習って「社会主義強国建設を一層力強く推進する」ことである。軍も人民も期待されているのは経済建設における成果の実現である。

 上記のような談話が発表された以上、今後、北朝鮮が米韓による合同演習の実施状況あるいは米朝交渉の進展度合いなどに関連させて、何らかの具体的対抗策を取る可能性は想定すべきであろうが、北朝鮮米朝交渉の枠組み自体を完全に破棄することを予定していると考えるのは早計であろう。