rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月13日 米朝交渉「年末期限」の意味とその後

 標記ついては、12月1日の本ブログ記事で、交渉における「期限設定」の効果について一般論的に検討した。

 ここでは、その結果を踏まえつつ、米朝交渉に即して、「年末期限」の持つ意味を検討した上で、「期限」後の推移を予測したい。

 その場合、まず必要なことは、米朝双方にとって、交渉が完全に決裂した場合、どのような状況が想定されるのか、の検討であろう。

 北朝鮮にとって、それは、単純に米朝交渉開始前の状況に戻ることを意味しない。それ以上に困難な状況に陥ると考えられる。

 まず、内政面での効果として、これまで金正恩が米国大統領トランプとの会談実現を大きな成果として宣伝し、また、それを背景に彼が「核戦力構築と経済建設の併進」から「経済建設への専念」へと路線を転換したことの反作用として、金正恩の権威失墜は避けられない。更に、「経済建設専念」路線を再転換することになれば、それに伴う何がしかの混乱のおそれがある。来年が最終年度となる「国家経済発展5カ年戦略」の推進にも支障をきたすことになろう。そうなれば、そのような結果がまた金正恩の権威を曇らせることになる。

 外政面での効果としては、何よりも米国からの圧迫が強まることは不可避であろう。更に、従来、後ろ盾となってきた中国、ロシアとの関係にも悪影響は避けられず、少なくともこれまでと同等の支持は得られなくなるであろう。韓国との関係も影響を受けざるを得ない。文政権が直ちに対北融和路線を全面転換するとは思えないが、その推進に対する国内の批判反発は確実に強まるであろう。結果的に文政権のレームダック化を促進することも考えられる。

 結果、北朝鮮に対する国連の経済制裁が一層強化されるなど、国際的締め付けは厳しさを増すことになろう。要するに、「非核化交渉」を完全に決裂させた場合に北朝鮮が蒙るダメージは計り知れないと言っても過言ではないであろう。

 一方、米国(トランプ政権)にとって、ダメージは制限的であろう。もちろん、金正恩との個人的関係をアピールしたトランプ大統領にとって、交渉決裂が「外交上の失敗」であることは否定できず、反対勢力からの「軽率」などの批判は当然予想される。しかし、それに対しては、「北朝鮮に最後の機会を与えた」ないし「北朝鮮の真剣さをテストした」こと自体には意味があった、その結果、北朝鮮に非核化の意思がないことを明確にすることができたのだから、今後は、そのような結果を国際社会と共有しつつ、懲罰的な強硬政策に転じればよい、オバマ政権時代のように漫然と手をこまねいていたよりはまし、との反論も可能であろう。なお、その場合に、直ちに軍事攻撃オプションに進むかといえば、それは、また別の問題で、そのメリット・デメリットを衡量する必要があろう。そこまでいかず経済制裁の範囲・方法などの更なる厳格化を図るオプションもありえよう。

 そもそも、米国内においては、北朝鮮問題への関心がさほど高いとも思えず、以上のような論争は、いずれにせよ、トランプ政権への評価(つまりはトランプ再選)に大きな影響を与えるものにはならないのではないだろうか。 

 以上の検討に基づけば、交渉の完全決裂によってより大きなダメージを受けるのは、明らかに北朝鮮の側である。そうであるとすれば、北朝鮮が「交渉期限」を設定したことに、相手に最大限の譲歩を促し、合意の成立を早めたいとの思い以上のものがあったとは考えにくい。

 換言するならば、北朝鮮は、「期限」を名目に緊張を高めるなど駆け引きを繰り返しても、その結果、米国から望ましい合意案が得られなかったからといって、直ちに交渉を完全に決裂させる措置を自ら取るとは考えにくい。

 むしろ、また新たに何らかの名目を掲げて、表面的には強硬姿勢を誇示しつつも、実際には交渉再開の余地が残されているような状況を作り出す、つまり事実上は「交渉期限」を撤回することになる可能性の方が高いのではないだろうか。交渉に進展がなくとも、それが「完全決裂」しない限りは、北朝鮮にとって「完全決裂」時に想定される前述のようなダメージは生じず、それなりに耐えられる状況が維持されると考えられるからである。

 そして、そのような状況は、トランプ政権にとっても、さほど受け入れ難いものではないのではないか。再選時まで交渉が成果なく推移したとしても、「状況をコントロールできている。自分がいなければ戦争になっていた」というトランプ独特の論法で自画自賛を続けることができるからである(それが北朝鮮にとっては不満なようだが)。

 したがって、米朝双方のどちらかが突然、大きな譲歩を示さない限り(その可能性は低いであろう)、新年を迎えた後も、前述のような双方の利害関係・思惑により、時に緊迫した局面を含みつつ、米朝関係は紆余曲折を続けることになる公算が高いと考えられる。その過程で、双方が満足できる合意案に到達できるか可能性はあるのか、それは、また別途に検討されるべき問題である。