rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月15日 最近の米朝交渉関連動向(暫定的分析)

 

 米朝交渉をめぐる北朝鮮の動向については、「労働新聞」にはほとんど報じられないことから、本ブログでは、これまで詳細・具体的な検討は行わないできた。

 しかし、最近、北朝鮮が設定した「年内期限」が迫り、我が国内外でも、それをめぐる報道が盛んになっている。

 そこで、今月に入ってからの北朝鮮の主な関連動向を整理してみた。

衛星発射実験場での「重大試験」実施

 最初の動きは、12月8日付け朝鮮中央通信が「国防科学院代弁人談話」を報じたことであったと言えよう。

 同談話は、「2019年12月7日午後、西海衛星発射場では非常に重大な試験が実施された」こと及びその「成功的結果」を「党中央委員会に報告した」ことを明らかにした。

 また、「(この)試験の結果は、遠からず朝鮮民主主義人民共和国の戦略的地位をもう一度変化させる上で重要な作用をするであろう」と予言した。

 

トランプ大統領発言への反応

 その後、トランプ大統領が、金正恩を再び「ロケット・マン」と称したり、軍事力行使を示唆したりするなどの発言をしたことに関連して出された北朝鮮側の反応は、それら発言を非難しつつも、それ以上の舌戦の激化を抑制しようとの姿勢をうかがわせるものであった。

 最初に出された金英哲党中央委副委員長の談話(12月9日付け)は、「米国大統領の不適切で危険性の高い発言と表現」が続いていることを非難し、トランプ大統領に対する個人攻撃的な言葉を用いつつも、「もう一度確認するが、我が国務委員長は米国大統領に向かって今までいかなる刺激的表現もしていなかった」とし、「しかし、(トランプ発言)このようなやり方で引き続き進むなら・・・国務委員長の認識も変わり得る」と、相互非難の中止を求めている。

 その上で、「我々は、これ以上失うべきものがない人々である」との表現を用いているが、その趣旨は、それに続く「米国がこれ以上我々から何かを奪おうとしても屈することのない我々の自存と我々の力、米国に対する我々の憤怒だけは奪うことができないであろう」と合わせて理解するべきであろう。要するに、ここで「失うべきものがない」というのは、「これ以上、奪われるものはない」ということで、端的に言えば、一層の制裁も怖くはないという意味であり、それ以上のものではなさそうである。

 むしろ重要と思えるのは、結びの部分で、「激突の焦点を止めようとの意志と知恵があるのなら、そのための真摯な腐心と計算をすることに多くの時間を投資すること」が現在のような舌戦を展開するよりも「賢明」であるとし、「米国に勇気がなく、知恵がなければ」、「安全が脅かされる現実をもどかしく見守るしかない」としていることである。これも換言すれば、米国が「勇気と知恵」によって、「激突を止める真摯な腐心と計算」をしてほしいとの期待を示したものと解釈できる。

 同じく9日、上述金副委員長の談話を追うように出された李スヨン副委員長の談話も、基本的には金副委員長の談話と同様、トランプ発言を非難するものであるが、結論としては、「国務委員長はいまだいかなる立場も明らかにしていない状態にある。また、誰かのように相手方に向かって揶揄的で刺激的な表現も用いないでいる」とした上で、「トランプの放言は中断されなければならない」とやはり沈静化を要求する内容になっている。

 

米国主導の国連安保理会議開催への反応

 米国の主導による国連安保理の公開会議開催(11日)に対する反応は、厳しさを増していた。

 すなわち、同会議を受けて出された外務省代弁人談話(12日付け)は、そこでの米国の主張を「敵対的挑発行為」と非難し、とりわけ、北朝鮮の「自衛的軍事力を育てること」(短距離ミサイル発射を指すと思われる)を批判したことを「我々を完全に武装解除しようとする」ものと決めつけ、また、(今後、北朝鮮が挑発的な活動を拡大した場合に)「相応の対応」との表現を用いたことに対して、「我々はこれ以上失うものがなく、米国が選択するいかなるものにも相応する対応をしてやる準備ができている」と強い反発を示すなどした。

 そして、結論として、米国による同会議開催が「我々をしていかなる道を選ぶかについての明白な決心を下す上で決定的な助けをくれた」と述べている。

 

再度の「重大実験」実施

 以上の経緯を経て、12月14日付け朝鮮中央通信が再び「国防科学院代弁人談話」を報じた。

 同談話は、「2019年12月13日22時41分から48分まで、西海衛星発射場では重大な試験がまた実施された」こと及び「国防科学者が(同試験結果に関し)現地で党中央の熱い祝賀を伝達された」ことを明らかにした。

 そして、「(これら最近の)国防科学研究成果は、・・・戦略的核戦争抑止力をより一層強化することに適用される」ことを予言した。

 以上の内容を8日発表の国防科学院代弁人談話と比較すると、①試験の実施時間が前回は「午後」としかされていなかったのに対し、分単位で示されていること、②党中央との関係について、前回は「党中央委員会に報告」のみであったのに対し、「党中央の熱い祝賀」の伝達があったとされたこと、③試験結果がもたらすものとして、前回は「戦略的地位の変化」であったのが、「戦略的核抑止力をより一層強化」することが予言されたこと、などであり、概して、一層具体的・直接的な表現になっていると言える。

 また同じく14日には、「朴正天朝鮮人民軍総参謀長談話」も発表された(同日付け朝鮮中央通信)。

 こちらの談話は、前掲「国防科学院代弁人談話」と平仄を合わせる形で、「国防科学院が重大な意味を持つ試験を続けて成功裏に実施し、国防力強化事業において大きな成果を成し遂げていること」について、「大変嬉しく考える」と評価するとともに、それらが「(北朝鮮の)戦略武器開発にそのまま適用されるであろう」と予言するものである。

 同談話は、その上で、「力の均衡」の重要性などに言及しつつ、最後は、「尖鋭な対決状況の中で米国をはじめとした敵対勢力どもは、我々を刺激するいかなる言動も慎んでこそ年末を穏やかに過ごすことができるであろう」と米国側の自制を求める言葉で締めくくっている。

 

とりあえずの分析

 状況は推移しており、現時点までの動向だけを見て、北朝鮮の狙いなどにつき何らかの見方を示すのは、あるいは早計かもしれない。

 しかし、それを承知の上で、前述のような最近の関連動向のほか、これまでの本ブログでの「年内期限」設定に関する分析なども併せて勘案し、あくまでも現時点における暫定的(tentative)な分析としてではあるが、北朝鮮の立場から見た状況の推移について、次のような仮説を提起したい。

 北朝鮮の基本方針は、米朝交渉の「完全決裂」は望まないものの、米国からできる限りの譲歩を引き出すため、敢えて「年内」という期限を設定し、交渉の促進を図ることにある。

 そのために、12月早々、まず「重大実験の実施」を報道しつつも、その表現は抑制的(具体的内容、写真非公開など)なものとし、米国に交渉の促進を求めた。

 しかし、それに対し、米国側からは、望んだような対応は得られず、代わりにトランプ大統領の「放言」が帰ってきた。北朝鮮としては、「最高尊厳」への侮辱的言辞を放置できないため、党幹部の談話という形で相応の反撃をしつつも、冷静な交渉(つまり何らかの譲歩案の提示)を訴えた(つもりであった)。

 それに対し、米国側は、国連安保理の公開会議開催を主導し、従前、トランプ大統領が問題視しないかのように扱ってきた短距離ミサイル実験まで批判の対象としたことから(実際には、この時の米国側の発言内容には「柔軟性」を示すものも含まれていたとされるが)、北朝鮮側は失望し、あるいは合意の可能性について悲観的な見方を強めたとも考えられる。極端な連想であるが、同会議の開催(北朝鮮批判の内容)は、北朝鮮側にとっては、日米開戦直前の「ハル・ノート」が日本側に与えたと同様の印象を与えた可能性もあるのではないか。

 北朝鮮としては、以上のような状況を踏まえて、更なる圧力行使のため、再度の「重大実験実施」を報じ、表現面でも前回より度合いを高めた。更に、それに呼応する軍総参謀長談話まで発表したが、同時に、同談話では緊張激化の回避を呼びかけ、交渉の余地を残した。ここまでが15日段階の状況である。

 以上の延長線上で考えると、今後、北朝鮮が米国側から望むような対応が得られない場合には、更なる「圧力」の行使も予測され、これからの時期が米朝交渉が一つの「山場」となることは間違いない。

 しかし、そのような強硬姿勢は前述のとおり、あくまでも譲歩引き出しのための交渉戦術であり、軍事力行使まで視野に入れたような決定的な対決局面を望んでのものではないと考える。これまで繰り返し述べてきたことだが、北朝鮮が国を挙げての対決モードを想定していないことは、上記のような一連の動向が労働新聞など国内向けメディアでほとんど報じられていないことからも明らかであろう。特に、国防科学院による「重大実験」が成功したことなどは、以前であれば大々的に報じていた事柄であり、それを国内で報じないことに留意を欠くべきではないと考える。