rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月23日 論説「革命伝統教育をより強化することは我が革命の最優先重大事」

 

 金正恩白頭山視察を契機として打ち出された「革命伝統教育」強化の狙いについては、本ブログでおいてこれまでにも論じてきたが、本論説は、それについて、興味深い内容を含むものである。

 論説は、「革命伝統教育」強化が重要であることの根拠を三点あげている。

 第一は、「思想陣地、革命陣地、階級陣地」の強化である。これが何を意味するかといえば、要するに、対敵警戒心の弛緩を防ぎ、それを再喚起するための「必須的要求」であるいうのである。そこで問題視されている現象ないし状況は、大別して次の3点である。まず「仇敵の本心を見分けることができず、何かの幻想や他人に対する依存心に捕らわれ安逸弛緩」することである。ここで、「仇敵」とか「他人」というのが具体的にどこを指すのか、非常に注目される。可能性があるのは、特に前者として米国、後者として韓国ないし中国が考えられるが、判然としない。次が「知識経済時代である今日の社会階級関係」、つまり、肉体労働従事者の減少と「技術労働、知識労働、精神労働に従事する勤労者の隊列が急激に増加している」ことである。明言はされていないが、後者の階級意識が希薄であることが示唆されている。最後が「新世代」の増加である。「敵の思想文化的浸透策動と心理謀略戦の焦点は、我が革命の主力として登場した新世代に向けられている」と見て、「搾取と圧迫も受けたことがなく、血に染まった決戦も炸裂する銃砲弾の音も聞いたことがない新世代を革命伝統で武装させる事業」が大切であると訴えている。

 第二は、困難に打ち勝つ「自力更生」精神の必要性である。「白頭の革命伝統には、直面する隘路と難関を自らの力で受け止め打開していく頑強な攻撃精神と百回転べば百回起き上がり戦う固い闘争精神が体現されている」として、それを継承し具現していくことを求めているのである。ここでも、「すべてが不足し、困難であるからと他人に依存し発展の道を模索したり条件が保障されるのを座って待ったりすれば、喜ぶのは敵ししかいない」と「他人への依存」傾向払しょくの狙いをうかがわせている。

 第三は、世代を超えた革命伝統継承の必要性である。「革命伝統教育を疎かにし新世代の思想と精神が曇れば、革命の代が絶え、彼らは悲劇的な運命を免れることができなくなる」と警告している。そして、金正恩は「育ちゆく新世代を幸福だけ享受する貴童子、貴童女としてではなく、白頭の革命伝統を大切に保ち先烈が血と汗を捧げて開拓し前進させてきた主体革命偉業を輝かしく継承完成させていく真の革命家として育てよう」としていると述べている。

 以上若干の重複もあるが、総じてみると、金正恩が「革命伝統教育」強化を打ち出した背景として、世代交代と産業構造変化(知識経済化)に伴う階級意識の希薄化、最近の国際環境変化を受けた「対外依存」志向の存在などが強く作用していることがうかがえる。このうち、「知識経済化」は、実は、金正恩自身が強力に推進しているところである。また国際環境変化には「制裁継続」と米国・韓国との潜在的改善可能性、中国との関係緊密化など様々な側面があり、どの要素がどのように作用しているのかは判然としないが、いずれにせよ、その種をまいたのは金正恩自身ともいえる。

 したがって、いずれにせよ、「革命伝統教育」強化方針には、金正恩による自らが推進してきた施策に伴う副作用に対する補正措置的な意味合いが存すると考えることもできるのではないだろうか。