rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月8日 評論「世界教育発展の方向―創造型の人材養成」(12月9日記)

 

 このところ「革命伝統教養」の話題が多いが、そのような中でも、驚くほど開明的な主張がなされている。それが標記評論である。

 評論は、世界の教育が時代の潮流である「知識経済」への適合に向かっていると主張し、まず、「知識経済」について、「人類社会が長い歴史発展を経る過程において形成された経済発展の新たな段階として、知識の生産と蓄積、応用によって発展する新たな経済形態」と定義している。「知識経済」という表現は、このところ北朝鮮で多用されているが、この定義からは、それを経済の基本的・構造的な変化に基づく歴史的な一段階を示すものとして認識していることがうかがわれる。

 評論は、そのような時代認識に基づき、「知識経済時代に国家経済発展において創造型人材の役割が高度に重視されることから、それを担保する教育が政治、経済、科学技術などと共に国家経済力を評価する重要指標として認定されている」として、世界の教育の在り方が抜本的に変化していると主張する。

 そして、従前の教育方法に対しては、「(学生が)該当分野の知識体系を備えることに重点を置き、・・・既存知識と経験を認定し、それに適応するようにすることに焦点を置いてきたところ、結果的に養成された人材が個性と創造性が不足した弱点を持つようになった」と批判する。そして、「これは知識経済時代の人材に対する要求に符合しない」として、今求められる人材は、「不断に新たなものを発見し、新たな見解を提起し、新たな問題を解決する能力を備えた創造系の人材」であるとする。

 評論は、以上のような総論的議論にとどまらず、具体的な教育課程の在り方にまで踏み込んでいる。すなわち、従前の教育は、専門性付与を重視する余り、学生の思考能力の基礎となる一般教育を軽視するきらいがあったとして、「一般教育と専攻教育の均衡を実現することに格別の力」を注ぐ必要があるとし、「専門家たち」の言葉を借りる形で、「知識経済時代の要求に符合する新たな教育観念を樹立し、教育事業を根本的に改善」することを主張している。

 以上のような主張は、同様に「知識経済」時代への対応を迫られながらも、「専門職大学院」の創設が進むなどしている日本の教育界の傾向とは対照的であり、ある意味むしろリベラルなものとも感じられる。北朝鮮にも、このような考え方が存在することに留意が必要と改めて感じる。

 なお、この評論の著者は、「本社記者・羅明声」(氏名音訳)とされている。「世界の潮流」を紹介する形とは言え、このように既存の制度・在り方を正面から批判するような記事の掲載が何故可能なのか、それは既に北朝鮮指導部ないし労働新聞社の総意となっているのか、あるいは一部グループが上部の支持・承認を得つつ(それがなければ怖くてこんなことは書けないし掲載もされないであろう)、全体の覚醒を促すべくこうした記事を執筆・掲載しているのであろうか。