rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月9日 評論「首領に対する絶対的な信頼感は忠実性の礎石」

 

 本ブログでは、このところ竣工が続いている各地の建設整備事業などについて、人民に金正恩の指導成果を「体感」「実感」させることにより、彼の指導に対する「確信」を抱かしめることを目指したものとの見方を示してきた(例えば、12月4日記事)。この評論は、そのような狙いを直截的に示したものといえよう。

 なお、評論の中身を論じるに先立ち、本日も、「我が党が人民に抱かせてくれた贈り物ー陽徳地区の別天地 」との共通題目の下、政論「母の願いがかなった地 陽徳の地に刻まれた人民愛の叙事詩をひろげて」をはじめとして、同地区を様々な側面から称賛する記事が掲載されていることを紹介しておきたい。ちなみに、同政論は、「温泉浴とともにスキーや乗馬もできる独特の多機能体育文化休養地、休養もし、療養もできる条件を立派に備えた世界的な温泉治療奉仕(サービス)基地」「人民の別天地」などと形容した上で、それが金正恩の人民に対する強い思いによって建設されたものであることを強調している。

 その上で、評論の内容に戻ると、まず「(人民の)首領に対する忠誠心は義務感ではなく、首領に対する魅惑と絶対的な信頼心から自ずと湧き出る高尚な思想感情である」として、忠誠心は、押し付けではなく納得に基づくものであるべきことを主張し、その実現のためには、「すべての幹部と党員と勤労者、人民軍軍人が領導者の偉大性について一層深く体得しなければならない」として、「領導者の偉大性」を「体得」させることの重要性を強調している。

 そのための具体的方法として挙げるのは、①最高領導者同志の思想理論の偉大性を深く体得すること、②我が人民を信じ人民の力を最大に発揚させ世紀的な奇跡と勝利を成し遂げている敬愛する元帥様の偉大性を深く刻み込むこと、③最高領導者同志の崇高な人民的風貌について心臓に深く感じること、である。なお、③の「人民的風貌」については「人民を熱烈に愛し、人民と生死苦楽を共にし、人民の幸福のため限りなく献身する」ことと説明されている。

 そして、結論として、そのようにして「最高領導者の思想と領導を一心に奉じていく道にすべての勝利と栄光がある」と主張している。

 上述の主張に即して、最近の三池渕郡邑地区、仲坪農場、陽徳温泉地区などに関する報道を見ると、それら地区のいずれについても、壮大な整備工事の短期間での完成などが上掲②の「世紀的な奇跡」を、また住民及び利用者など人民のための施設の充実ぶりなどが③の「人民愛」を、具現するものとして誇示されているといえよう。更に強いて言えば、金正恩がこのたび打ち出した冬季における「白頭山革命戦績地踏査」は、①の「最高指導者同志の思想理論」のルーツである抗日パルチザン闘争参加者の労苦を文字通り骨身にしみる形で実感させるものとなろう。それらを通じて、幹部以下の全人民が金正恩を信頼し、その指導に絶対的に従がっていくようにすることが目指されているのである。

 なお、余談だが、本評論は、冒頭では「忠誠心」の対象を「首領」として議論を始めているが、途中から、「最高領導者」すなわち金正恩がその対象となっている。ここからは、現在の北朝鮮の発想が明言はしないものの、事実上、金正恩を首領とみなすものであることがうかがわれる。

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 最後に評論の内容から離れて、方法論的な弁明を一言させていただく。本ブログ開始当時、ある方から、一般論としてではあるが、自分の結論に適合する事象を選択的に取り上げることによって、その結論の妥当性を証明するような論述方法は、要するに「はじめに結論ありき」に陥る危険をはらんだものである旨の忠告をいただいた。誠におっしゃるとおりで、常に自戒はしているのだが、結局、その幣に陥っていないと自信を持って言うことはできない。本日の上掲記事は、まさにその端的なあらわれかもしれない。他方、何らかの仮説を立てて、それを具体的な根拠を積み重ねることによって実証していくことも、大切な方法論であろう。両者の折り合いをいかにつけるべきか、暗中模索の日々を送っている。

 本ブログについては、そのような問題を抱えたものである旨を了解の上、お読みいただければ幸いである。