rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

 

11月17日 論説「すべての分野で社会主義の優越性を高く発揮しよう」

 

 表題からは想像しなかった興味深い内容の論説。ここで言う「社会主義」とは「我々式社会主義」を指すのであるが、「(その)優越性を高く発揚することは、特に今日、一層切迫した重要な問題として提起されている」と言う。

 その理由は、世代交代に伴う考え方の変化に対応するためである。すなわち、「搾取と圧迫を受けることができず、革命的鍛錬が不足した新世代が革命の主力として登場した今日、社会主義の優越性を余すところなく発揚させるための事業を疎かにするなら、彼らの中で社会主義信念が動揺し資本主義に対する対する幻想が芽生え育つことがあり、結局、自分の思想と制度を守り輝かしていくために献身的に闘争していくことができなくなる」からである。

 論説は、「社会主義の優越性を高く発揚すること」の必要性を以上のように説明した上で、まず、それを実現するための前提として、北朝鮮社会に特有の「気風」の確立を要求する。すなわち、「社会主義朝鮮においてのみ求めることのできる社会主義気風」として、「すべての人民が領導者の周囲に鉄桶のように結集し、互いに助け導く集団主義気風、革命的同志愛の美風と高尚で健全な道徳気風、生活気風」を挙げ、「(そのような)我が社会の本態と革命的大風貌を積極的に生かしていくこと」が「主体の社会主義が生気と活力にあふれ前進するための担保」だと言うのである。

 論評は、そのような前提の下、「社会主義の優越性を高く発揮する」具体的方法として、「すべての部門、すべての単位において自分の土地に足を着け、目は世界を見る主体的立場と革新的眼目を持って、世界と競争し、世界を超える」ことを求める。なぜなら、それをせずに「社会生活の各方面で世界的水準を突破するための事業を等閑視」するなら「人々の中で他人のものにあこがれる現象が現れ、虚無主義が芽生えることになる」からである。

 そして、その成果は具体的に実現されなければならないとも主張する。「既に達成した成果を自画自賛して発展しようとせず、人民に実際の恵沢を与えなければ、社会主義は生命力を失うことになる」のであり、「社会主義と資本主義の差異を天と地ほどに」誇示することを求めている。

 論説が最後に強調するのは、そのような課題を実現する上での幹部の役割の重要性である。そこで求められるのは「社会主義の優越性を高く発揚しようとスローガンでも叫び、会議でも開いて」ことを済まそうとするような幹部ではない。「人民のために身を捧げ闘争する幹部が切実に必要である」。「すべての幹部が滅私服務精神を骨に深く刻み人民のために良いことを一つでも多く探して行(う)」ことが求められるのである。

 本論説において特に注目されるのは、まず北朝鮮の「新しい世代」において「資本主義に対する幻想」が生まれ、社会主義すなわち北朝鮮体制に対する懐疑が広がりつつあること、そして、そのような状況に対して北指導部が切迫した危機感を抱いていることがうかがえることである。ここで「新しい世代」というのが具体的にどのような年齢層を指すのかは明示されていないが、「搾取と圧迫」の経験がないことを基準とするなら、社会主義体制発足後に生まれた世代ということになり、少なくとも60歳以下はすべて含まれることになる。つまり人口の大半が思想的な脆弱性を抱えており、そのような脆弱性が現実の問題として表面化しつつあるということになる。

 二番目に注目されるのは、そのような世代に対する対策として、北朝鮮に特有の「気風」といういわば伝統的・思想的要素と「国際水準への到達」ないし実利実益の給付といういわば先進的・実務的要素を並列していることである。そのうち後者が金正恩のお気に入りの政策であることは改めて言うまでもない。本論説の最大の訴求点もここにあるのではないかと思われる。ただ、そうであっても、その前提なり担保として前者を漏らすことなく掲げているところに北朝鮮宣伝部門の「凄さ」が感じられる。

 三番目に注目されるのは、幹部の役割の強調である。とりわけ「スローガンでも叫んで会議でも開いて」すませることを封じているのは、幹部の官僚主義的働きぶりに対する辛辣な批判となっている。このあたりの表現は、まさに金正恩の「口癖」を反映したものと言えよう。幹部がそのような体質を抜本的に改善しないと前述の「新世代」の抱える体制不信が抑えきれなくなるということであろう。金正恩の危機意識は相当深いと感じられる。