rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

7月18日 論説「徳と情で和睦する我が社会の真の姿」

 

 標記論説は、北朝鮮社会が「徳と情で和睦している」との前提にたって、その「真の姿」を次の二つの面から描写している。

 第一は、「すべての人民が領導者の愛と信頼に忠誠で報答することを革命的義理とみなしている」ことである。「愛は下り、忠誠は上るもの」なのだそうで、「(上から下に下る)崇高な愛と(下から上に向かう)高潔な忠誠こそが、首領と戦士、領導者と人民の間に存在する固有の倫理である」と主張する。すなわち、「首領は人民を胸に抱いて面倒を見、人民は首領の恩徳に報答するため闘争すること、これが社会主義の前進過程である」という。他国の「社会主義者」が聞いたら驚くかもしれないが、これが北朝鮮のいう「社会主義」なのである。

 第二は、「すべての人民が革命的同志愛と道徳義理によって、立ちふさがる試練と難関を突破している」ことである。前項が領導者と人民の関係について述べていたのに対しこれは、人民、相互の関係について述べるものである。その点で、「自分よりもまず他人のために行動し心配し、熱い人情が空気のように流れる我が社会こそが世間で最も優越した社会である」という。様々な事例をあげて、「今日、我が人民の中では、革命的同志愛と道徳義理が崇高な高さで発揚されている」と主張する。ただ、ここでは、「難関を突破している」ことについての言及はない。生存していること自体が突破しているということなのであろうか。

 論説がこのような理想を縷々述べた最後に主張するのは、「すべての幹部と勤労者は、世間で最も優越した社会主義制度に生きる矜持と自負心を胸に深く刻み、全社会を徳と情があふれる和睦した大家庭として整えていくことに自らのすべてをみな捧げなければならないであろう」ということである。

 上記のような論説の内容は、常日頃から掲載される現状批判の論調などに照らしても北朝鮮社会の現実をそのまま反映したものとは思えず、また最後になって、最初に前提とされていた事柄が努力目標として提示されているようにも見え、論理的には空疎な内容と言わざるを得ない。しかし、北朝鮮指導部があるべきと考える「理想像」を描いたものとして読めば、彼らがいかなる社会を理想としているのかを端的に示したものといえる。とりわけ、そこで示された領導者と人民の関係についての超「父権主義」的発想は、北朝鮮政治を理解する上での大前提として銘記されるべきであろう。