rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月16日 論説「偉大な金正恩同志は、主体革命偉業を粘り強く前進させる卓越した領導者である」

 

 標記論説は、2012年4月を金正恩時代の起点とした上で、その後8年間を回顧し、同人の指導の成果とその偉大性を称賛するものである。

 まず、8年間の成果として、第一にあげるのは、「首領の革命思想と社会主義理念、原則が確固として固守されている」ことである。それを重要と考えるのは、「社会主義の前進は、本質において首領の革命思想、指導思想の純潔な継承である」との発想があるためであろう。ここで注目されるのは、その「継承」の在り方について次のような主張を展開している点である。すなわち、「社会主義偉業を前進させようとするなら、環境と条件が変化するのに合わせ路線と政策を創造的に発展させなければならないが、いかなる場合にも違えることのできない根本原則がある」というのである。それは何かというと、「革命と建設に対する党の政治的領導を確固として保障し、人民政権の機能と役割を絶え間なく高め、社会主義的所有を固守し発展させていくこと、民族自主の旗幟、反帝闘争の旗幟を高く掲げ、革命武力を名実ともに党の軍隊として強化発展させること」であるという。このような原則に基づき、北朝鮮は、金正恩の指導下、「急変する情勢に能動的に、巧妙に対処しつつ、革命の根本利益と根本原則においては、一歩も退かなかった」と主張している。

 成果の二番目は、「領導者の周囲に鉄桶のように結集し白頭の革命精神で生き闘争する継承者大軍が力強く育っている」ことである。すなわち「育ちゆく新世代たちを政治思想的にしっかりと準備させる事業」における成果である。ここでは、白頭山革命戦跡地踏査行軍なども言及されている。ただし、ここで興味深いのは、「今、世界的に資源危機、生態環境危機、水危機をはじめとした各種社会的難問よりもっと深刻なのは青少年たちの精神道徳的堕落であるとの慨嘆と絶望の声が日に日に高まっている」との指摘である。これは、実は、北朝鮮内部における青年事業の困難さについての一般的認識を反映したものではないだろうか。

 三番目にあげるのは、「自力更生大進軍の強い火の手の中で強国の明日を促進する変革的成果が連続多発的に成し遂げられている」ことである。要するに経済建設面での様々な成果を自賛しいているのであるが、興味深いのは、「厳酷な試練は我が人民が自分の力を信じ自力更生の旗幟を高く掲げてきたことがどれだけ正当であったかを骨に深く痛感し、他人に対する依存心、輸入病の残滓をきれいに振るい落とす上で有益な機会として反転した」との主張である。「輸入病」批判などの平素の論調を勘案すると、このような主張がどの程度現実を反映しているのか疑問であるが、「やせ我慢の言」としては巧みな論法といえよう。

 論説は、過去8年間の成果を以上のように自賛した上で、その結果、「敵対勢力どもの反共和国策動は、我が国家の無視できない戦略的地位と強大な力を認定し、『共存』するしかないとの敗北感と恐怖心から身もだえする最後のあがきに過ぎない」と断じている。敵対勢力が北朝鮮と「共存」するしかないと判断しているとの認識は、今後の対外政策を予測する上でも、大いに着目すべきものといえよう。

 金正恩の偉大性についての記述については、簡単にとどめたい。①主体革命偉業に対する無限の忠実性を帯びた革命的信念と義理の最高化身、②革命と建設のすべての分野についての政治的領導を輝かしく実現する稀世の実力大家(非凡な政治的眼目と傑出した領導実力すなわち提示した路線を具現していく力を兼備)、③人民と生死苦楽を共にする滅私服務の最高亀鑑、といったところが主な柱であり。結論として「社会主義偉業を導く領導者が備えるべきすべての資質と風貌を理想的な高みにおいて体現」していると絶賛している。

 本論説は、相当の長文で、なぜ2012年4月を起点とするこのような回顧が今の時期に出されたのかは判然としないが、それなりの背景・狙いがあってのことと考えられる。5月1日以降、約2週間にわたり再び「潜行」を続ける金正恩の再出現後の動向が、政策展開の方向性も含めて、改めて注目される。