rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月14日 評論「輝く時代語 金正日愛国主義

 

 先日来、「金正日愛国主義」の意味が分からないとぼやいていたら、標記の評論が掲載された。自らの不明を恥じつつ、有り難く紹介させていただく。

 まず、この概念の始まりについては、金正恩が2012年7月26日、党責任幹部との談話「金正日愛国主義を具現して富強祖国建設を推し進めよう」の中で打ち出したものと説明されている。このとき、金正恩が、「偉大な将軍様金正日)が帯びられ、自ら実践に具現してこられた愛国主義は、その本質的内容からみても、大きな生活力(効用の意)からみても、ただ金正日同志の尊名とだけ結び付けて呼ぶことができる最も崇高な愛国主義である」ことを理由として、「将軍様が心の中で大切に守り具現されてこられた愛国主義金正日愛国主義として定立し、その本質と特徴を明らかにされた」という。

 では、その「本質と特徴」は何かというと、評論によると、第一に「崇高な祖国観に基づいている」ことである。ここで「崇高な祖国観」というのは「我が人民においては、祖国はすなわち首領であり、祖国の懐は首領の懐であるとの深奥な思想」を意味する。したがって、「祖国のために献身することとは首領に忠実であることであり、首領に対する忠実性はすなわち愛国心の発現として、愛国主義の最高表現となる」。

 第二は、「人民を天のようにみなす崇高な人民観にその基礎をおいていること」である。その根拠として挙げられるのは、金正日が「この世の中に全知全能の存在があるとすれば、それは神様ではなく、人民である」と述べたなどのエピソードである。金正恩が上述の談話の中でそれを披露したのである。

 第三は、「偉大な将軍様が帯びられた崇高な後代観で一貫している」ことである。ここで「後代観」とは、「どんなことを一つするにも、自分の代にはたとえ効用を得られなくても、遠い後日になって後代達がその効用を得られるように最も立派に、完全無欠にしなければならない」という考え方と説明される。

 以上の説明で最も注目されるのは、一番目の点、すなわち愛国心と首領への忠誠が表裏一体のものとの発想である。確かにこれは、世間一般の「愛国心」とは異なる独特の考え方であり、固有の呼び方をする十分な理由といえよう。

 ただ、上述の説明にあるように、それらの発想は、金正日の「心の中」にあったものを金正恩がこの時に定式化したものであり、名前は「金正日愛国主義」であっても、その創始者金正恩ということになろう。これは、まさに「金日成金正日主義」と同じ構図である。金正恩が権力継承から間もない時期に、このように独自の思想概念を次々に打ち出した事実は、特筆されるべきであろう。その背景には、誰か助言者が存在したのか、あるいは彼がかねて構想を温めていたのか、興味深い問題である。

 ちなみに、金正恩の上記談話は、『金正恩著作集』(白峰社、2014年)に掲載されている。