rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月17日 記事「幸福の光を守る人々―定坪郡中小型発電所運営・建設事業所において」(11月18日記

 

 短い記事だが、前掲の論説とも関連して、今、北朝鮮の勤労者に何が期待されているかを端的に反映しているとの考えから、紹介したい。

 記事は、まず、次のような金正恩の言葉を掲げる。

 「今日、我々の党員と勤労者の中には、誰が見ていてもいなくても、分かってくれてもくれなくても、黙々と自分が任された哨所(持ち場の意)において祖国と人民のため誠実に働く人々が多いです。」

 そして、同事業所の活動を紹介した上で、「いつでも発電機に対する点検保守と堰堤(ダムの意)構造物管理を責任を持って行っている、ここの幹部と従業員たちの職場に対する愛着心は格別である」と称賛している。

 言うまでもなく、この事業所の勤務員たちは、金正恩が述べた「誠実な人々」の実例として紹介されているわけである。しかし、同記事は、そのような働きぶりを格別なものとして称賛することによって、金正恩の言う「多い」の意味が「ありふれたもの」と同義ではないことを如実に示している。

 要するに、北朝鮮においては、現在、誰かの監督とか評価のためではなく内在的な責任感によって日々の仕事を誠実に粘り強く続ける、といった気風が貴重なものになっているのであろう。

 そのような推測の根拠としては、これまでにも『労働新聞』紙上に様々な職場において地道な仕事を長年にわたり黙々と続けてきた人々を顕彰する記事が少なからず掲載されているからである。

 なお、本記事もそうであるが、それら記事の多くは、社会インフラ、例えば道路・上下水道などの整備・保守管理業務に従事する人々に関するものとなっている。なぜそれら部門が特に顕彰の対象になってるのか、確証はないが、一つの仮説としては、近年の企業経営における自主的権限強化などにより、生産企業などにおいては勤労者への成果報酬などが相当導入されたが、生産や利潤などの測定が困難な社会インフラ部門などでは勤労者の処遇に行き届かない傾向が生まれ、相対的な不満感が生じていることも考えれる。

 仮にそのような推測が正しいとするなら、勤労意欲の増大を主たる狙いの一つとして導入した「改革」的施策の副作用によって、こうした社会の基盤を支える部門などを中心に、無責任、投げやり的な仕事ぶりの蔓延を招来したということになり、誠に皮肉な結果と言わざるを得ない。

 ただし、そういった無責任・投げたりな勤務姿勢といったものは、昨日紹介の論説中で使用されていた「虚無主義」などの表現とも通底するとも考えられるだけに、前述のような特定部門だけに限定されるものではなく(そこで特に顕著に表れているとしても)、もう少し幅広い社会的普遍性をもった問題である可能性も否定できず、その実情には今後とも注視が必要と考える。