rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

12月29日 論説「我が党が明らかにした農業発展の5大要素に関する思想の正当性」

 

 まず「農業発展の5大要素」とは何か。論説によると、①種子革命、②科学農事、③新土地探し、④低収穫地での増産、⑤党的指導の強化、だそうである。ここで、②は営農における科学技術の活用、③は新たな耕地の開拓を意味すると考えられる。そして、それは「偉大な首領様(金日成)と偉大な将軍様金正日)が身をもって創造され、遺産として譲り渡して下さった主体農法と農業革命方針を継承し、より深化発展させた思想」とされる。

 もちろん、そこで「深化発展させた」主体は、金正恩であることは言うまでもないが、なぜか、論説では、「我が党が明らかにした」として、彼の名前を直接上げることは控えている。その理由は、推測であるが、実は、この「5大要素」の考え方が、先代たちの考えを相当に換骨奪胎したものであって、そのために先代たちと金正恩が直接対比されるのをはばかったためではないかと思われる。換骨脱胎というのは、先代たちの農業に関する主要な柱のいくつかを切り捨てているからである。思いつくままに挙げても、「栄養壷」、密植耕法、棚田造成、ジャガイモ重視など、かつて盛んに喧伝されたが、最近は余り聞かれなくなったスローガンがある。いずれにせよ、今日の農業経営においては、従前の政策はいったんご破算とされ、金正恩の示した新たな方針(5大要素に関する思想)を基調として推進することが求められていると言えよう。

 では、論説は、同「思想」をいかなる点で正当と主張しているのか。

 第一に、「農業部門の実態と農業発展の現実的機能性に対する科学的分析に基づき、最短期間内に国の農業を飛躍的に発展させることができる方向と方途を明らかにした独創的な思想」であるとしている。これは、要するに現実に立脚した合理的方法であることを強調していると考えられる。

 第二に、「農業部門に痼疾的に残っている経験主義、主観主義、官僚主義形式主義を決定的に根こそぎにし、党の農業政策を徹底して貫徹する上で転換的契機を開く革命的な思想」であるとしている。そして、「我が党」は、「科学を堅持し、党的指導を強化」することによって、そこであげた「古い事業方法と作風を根こそぎすることを重要事として強調している」ことも明らかにしている。

 ここで挙げられている点は、いずれも金正恩の路線・政策の特徴と符合するものであり、これは、まさに彼の「独創的」な農業思想であるといえよう。ただし、同「思想」の「正当性」を敢えて主張するこのような論説が発表されたこと自体、それが実際には農業の生産現場などでいまだ完全に浸透ないし受容されていないことを示していると考えることも可能であろう。「経験主義」などの「古い事業方法と作風」に対する彼の闘争は、誠に前途遼遠と思われる。