rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

1月16日 社説「我々の主体的力、内的動力をくまなく強化しよう」

 

 「主体的力」とか「内的動力」という表現は、昨年末の中央委員会会議における金正恩の報告に用いられて以来、しばしば「正面突破戦」の原動力として用いられる表現となっているが、その実、具体的に何を指すのか、いかに発揮されるのか判然としないところがあった。この社説は、それを解説するものであり、次のような主張を展開している。

 第一は、「なによりもすべての幹部が自分の部門、自分の単位に存在する難関を自分の事業に内在している不足点と結び付けて深刻に分析し、時宜に即した対策を立てて行く」ことである。ここで強調されているのは、「欠陥の原因を客観にではなくまず主観に求め、大胆に直していくこと」である。端的に言えば、幹部皆が、不振の責任を他に転嫁するのではなく、自分自身の至らざるところの結果としてとらえ、正すべきは躊躇なく正せ、ということであろうか。

 第二に「主体的力は必勝の信念と自信の力強い噴出である」という。これが何を意味するかと言うと、消極的発想を除去せよということである。すなわち「他人に対する依存心と輸入病、敗北主義と無責任性」を「根こそぎにしなければならない」との主張である。

 第三は、「人民大衆第一主義を徹底して具現していく」ことである、それが「内的動力」といかに結びつくのか分かりにくいが、そのために、「人民のために滅私服務する気風を確立し、党に対する人民の絶対的な信頼心を守る」とか「教育と保健事業を根本的に改善して人民が社会主義祖国の貴重さを肺腑で実感するようにする」ことなどを訴えていることからすると、行政サービスの改善などを通じて、一般大衆の不満を解消し、自発的な努力を引き出そうとの狙いがうかがわれる。

 なお、ここでは、それら事項とあわせて「反社会主義、非社会主義的要素と現象を一掃するための殲滅戦を全党的、全国家的、全社会的に強く展開」することを求めている。それらが一つの柱の中で論じられているということは、幹部の執務態度や教育、保健などの行政サービスへの不満と反社会主義的風潮の蔓延との間の結びつきを示唆したものとも考えられ、実情が注目される。

 第四は、「集団主義の威力」との結びつきである。具体的には「集団的、連帯的革新の火の手を引き続き燃え上がらせ、大衆運動を活発に展開して集団の和睦と団結を図る」ことなどがあげられている。「〇〇日戦闘」などのいわゆる動員運動を通じた生産の促進が念頭にあるのであろうか。

 第五は、党員の役割を高めることがあげられている。すべての党員が「党と国家の重大事を共に心配し悩み、解決策を探求する」こと、困難に負けない「不屈の闘士」になることなどが求められている。

 最後にあげられているのが、「党組織と幹部の役割を非常に高める」ことであるが、ここで具体的に求められているのは、「群衆の創発的意見と着想の芽を大切に扱い、その実行過程に大衆の知恵と叡知、積極性が最大限発揮されるようにする」ことである。

 全体を通じても、なお「主体的力、内的動力」の本義は判然としないが、推測するに、幹部が従前の不適切な指導、余計な掣肘あるいは不正腐敗などを正し、率先垂範することによって、大衆の中に潜在する大きな可能性を発揮させることができるという考え方が背景にあるようにみえる。

 そうであるとすれば、こういった主張は、1950年代末期の「千里馬運動」開始時期における金日成の指導権強化の過程を彷彿させる動きともいえる。こういったスローガンの提起が当時と類似の政治状況(トップの路線に完全に同調しない実務幹部の存在)が北朝鮮に存在することを反映したものであるのか、単なる発想だけの借用なのか、慎重に見極める必要があろう。