rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

1月22日 評論「自力更生、自給自足の基本要求」(1月23日記)

 

 北朝鮮の経済部門に存在すると思われる問題を相当具体的に示唆する評論。標題となっている「自力更生、自給自足の基本要求」が何かの結論は、冒頭に掲げた金正恩の発言によって示される。すなわち、「経済発展と人民生活において提起される物質的需要を国内生産で保障することができる多方面的で総合的な経済構造を備え、不断に改善完備しなければなりません」ということである。

 当然の主張のようにも思えるが敢えてそれを主張しなければならない事情が存在するようだ。結論を先に言うと、個別の機関・単位(企業所など)が「自力更生」を名目に、国家的利害に相反する行動をとっていることである。本評論は、そのような行動を戒め、国家の統制に服することを強く求めるためのものと考えられる。

 そのような現象に対する問題意識が端的に示されているのが、「自力更生、自給自足は、決して、個別的な機関、企業所、団体、住民がいかなる方法であれ、各々稼いで生きていくことを意味するものではない」との指摘である。同評論は、そういった個別の単位ではなく、「国家的範囲で経済事業を組織整備し、活性化」することが必要だと主張する。そして、その理由として次に2点をあげる。

 第一の理由は、それが「国家の自立的土台をくまなく強化するための鍵」であるからである。ここで問題とされているのは、「各単位が自分の単位の狭小な当面の利益だけを追求」して、勝手に基地・原材料生産工程を設置・運営することである。そして、「国家の統制力、執行力を高め」てこそ、「各単位が自分の利益の前に国家的利益を図る気風」を確立できると主張する。

 ここでは、同時に他国への依存を防止する必要性も強調される。「試練を打開するするための方法を外部の支援や協力に求めること」は「自殺行為と同じ」とまで主張し、「個別的な機関、企業所、団体が原料と資材、設備が不足したら、国境の外を眺めるのではなく、国内の生産単位を訪ねて解決」することを求めている。

 第二の理由は、「国の貴重な資源と創造的活動の結果が人民生活向上に実質的に貢献するようにするための担保」であるからである。そして、現状について、「万一、個別的な機関、企業所、団体が人民の血と汗、誠実な努力が込められた資源と生産物を安売りし、安物の外国商品を持ち込み、甚だしくは国内でも(同種のものを)生産する製品まで持ち込む現象をこのまま放置していたらどうなるのか」と危機感を強調する。また、別の側面から、「個別的な単位が計画遂行や量的成長にだけ着目して、先質後量の原則に反するなら、反復施工(造り直しの意味か)、滞貨品が生まれることを避けられない」との指摘もしている。要するに、個別企業の勝手な行動によって折角の生産活動の結果が無駄になり、国民生活の向上につながっていない現象があることを前提に、それを抑制するためにも、「国家的範囲での経済事業を組織整備し、活性化する」ことが必要との主張である。

 評論は、結論として、「今日の現実は、国家的範囲において経済事業を緻密に組織し、活性化することをより切迫して要求している。今こそ国家の経済組織者的役割をくまなく強化し、経済建設と人民生活向上に必要な需用を充分に保障すべき切迫した責任ある時期である」としている。

 評論の以上のような内容は、先の中央委員会会議における内閣機能強化などの主張と符合するものであると同時に、そのような主張が打ち出された背景として、どのような問題現象が存在するのかを示すものといえる。

 「正面突破戦」の提起には、対外関係緊張などを名目、に内閣機能を強化し各個別単位のそのような行動を抑制しようとの狙いが込められていると考えられるが、それは各単位の利権(場合によっては、そこで働く勤労者の生活)と真正面から衝突するものともいえる。中国には「上に政策あれば、下に対策あり」との表現があるそうだが、北朝鮮においても、程度の差はあれ同様のことがいえるのではないだろうか。「米帝との対決」や「抗日遊撃隊式」といった精神論で、果たしてそういった「抵抗」を克服できるのか、疑問視せざるをえない。