rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

1月24日 社説「経済事業において内閣責任制、内閣中心性を徹底して確立しよう」

 

 昨日の本ブログで、「国家的範囲で経済事業を組織整備し、活性化」することの必要性を訴える評論を紹介し、それを内閣の機能強化の主張と符合するものと述べたが、まさにその内閣の機能強化を訴えているのが標記社説である。

 したがって、同社説の示す現状認識、問題意識も昨日紹介の評論と同様、国家全体の利益という視点での秩序が混乱しているということである。すなわち、「今、経済分野には我々の自強力増大を阻害する弊害と不足点が少なくない。変化した現実に符合できず、経済事業体系と秩序が紊乱し経済全般に否定的影響を及ぼしている」と主張する。

 その上で、社説は、「その原因は、内閣の執行力、統制力が微弱であることにある」とし、内閣が「経済司令部としての役割」を確実に果たすこと、すなわち「内閣責任制、内閣中心制を強化すること」が必要であると主張する。

 そして、その必要性の根拠として、それが「社会主義経済の優越性を余すところなく発揚させ、敵対勢力どもの圧殺策動を総破綻させるための先決条件」であることをあげる。また、その実現が切迫した課題であるとし、その根拠として、「国と民族の尊厳と運命を掛けて正面突破戦に出た我々が敵対勢力どもとの対決戦において勝利を収めるためには、敗北主義と保身主義、小心性と消極性、責任回避と本位主義のような内閣の執行力、統制力を弱化させる要素を徹底して克服しなければならない」ことをあげている。

 このような表現は、これまで本ブログで繰り返し指摘してきたとおり、「敵対勢力との対決戦」を名目として、国内各層の意識改革を目指すことが「正面突破戦」の基本的狙いであることを改めて示したものといえよう。

 社説は、次に、内閣責任制、内閣中心制強化の具体的方策をあげる。

 第一は、「国家の経済事業全般に対する作戦と指揮を正しく行う」ことである。その趣旨は、まず、「党の経済政策」を忠実に具現化すること、すなわち「党の政策が提示されれば即時に接受し、執行対策を立て、いったん決心したことは天が崩れても必ず先後までやり遂げる」ことである。おそらく、ここで「党」とは金正恩を指しているのであろう。

 その上で、経済計画の適正な作成・推進が求められてる。「内閣と国家計画委員会においては、社会主義計画経済の本質的要求に合うよう動くことのできないできるの誤植であろう)科学的な数字に基づいた執行担保が確実で拘束力のある計画を作成し、強く執行していかなければならない」という。更に具体的に、「計画化事業を改善するための明確な方案を探し、全般的な生産と供給の均衡を保ち、客観的条件と可能性、潜在力を打算し、主要生産目標と経済技術的指標を再確定し、その実行のための具体的な計画を樹立」することも求めている。

 同時に下部の指導・統制についても、「内閣は、下部単位を強く掌握し指導して、国家経済発展戦略目標遂行のための全般的な生産経営活動の統一性と目的指向性、効果性を徹底して保障」するよう求めている。

 第二は、「経済事業において提起されるすべての問題を内閣に集中させ、内閣の決心と主管の下で解決していく規律と秩序を確立」することである。そのためには、「すべての部門、すべての単位において、・・・内閣の統一的指揮に徹底して服従する」ことを強調している。また、「国家経済の総的規模計算と国家統計作成に必要な総合指標、経済部門別現物指標、社会生活全般に対する資料を正確に総合できるよう計画及び統計数字を適時に提出することを義務化、制度化しなければならない」と主張している。

 第三は、内閣が「すべての経済指導機関が内閣の決定、指示を徹底して執行するように要求性を高める」ことである。このようなことを敢えて強調するのは、「内閣と部門別指導機関である委員会・省の決定指示をこの口実、あの口実を使って取引し、そのとおりに執行しなかったり破ったりする現象」があるからであり、それに対しては「問題を厳しく対処し些少な偏向も生じないよう強く対策を立てなければならない」として、非妥協的に対応することを求めている。

 第四は、「内閣イルクンの責任性と役割を非常に高める」ことである。

 以上の課題を概括的に整理すると、第一は内閣における計画の作成・実践の側面から、第二は各企業所など下部の単位における運営の側面から、第三は内閣と下部単位の関係の側面から、第四は内閣勤務員の仕事ぶりという側面から、内閣の指導的機能強化に向けた方策を論じたものといえよう。

 しかし、それら事項はある意味当然の事柄であり、特段新味のあることとも思えない。むしろ注目される(驚くべきこと)のは、そのようなことを改めて強調しているということである。そのような要求は、それが実行されていないからこそのものと考えられるからである。例えば、各単位の「計画、統計数字」などの内閣への提出は義務化されていなかったのであろうか。

 要するに、この社説は、昨日の評論に関し紹介した個別単位の勝手な行動に対する批判などと併せて勘案すると、北朝鮮経済が「社会主義計画経済」との看板とはまったく裏腹な形で運営されてきたのではないかとの推測を可能にするものといえる。その背景については、金正恩時代に入って進められた各企業所における運営権限の強化のほか、経済制裁による物資不足や「自力更生」スローガンの下での各企業所における自力調達努力の強調などをあげることができよう。それらが複合的に作用しているのかもしれない。

 いずれにせよ、上述のような社説の表現からは、経済運営の実情が看過できない程度にまで至っていることをうかがわせるものといえる。金正恩が「正面突破」しようとしたのは、まさにそのような状況ではなかったのかと考える所以である。