rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

1月25日 論説「広範な群衆を党の周囲に結集することが党イルクンの本分」(1月26日記)

 

 論説は、まず、対群衆活動の重要性について、「我々の内部に混乱と不安定を造成し、ひいては我が共和国を崩壊させようというのが敵対勢力どもの凶心である」との認識に基づき、「広範な群衆を党の周囲に結集する事業を傍観するなら、血で勝ち取った革命の争取物を守ることができない」と説明した上で、そのための方策を3点あげている。

 第一は、「対象の特性に合う処方を持って人との事業を行うこと」である。画一的な宣伝方法ではなく、対象者の性格、興味、関心などを把握した上で、それに即した形での働きかけを行うことを求めている。

 第二は、「立ち遅れた人に対し、最後まで責任をもって教養(教育)すること」である。ここで「立ち遅れた人」というのは、問題を抱えた人、過去に過誤を犯した人などを指す。「立ち遅れた人、病になった人はいても、改造できない人は我が社会に存在しえないとの観点を持って」、そういった人々に対しても粘り強く働き掛けることを求めている。

 第三は、「党イルクンが大衆の見習うべき模範、教科書になること」である。これに関し興味深いことが2点ある。一つは、この課題を他国の社会主義体制崩壊の教訓と位置付けていることで、「過去、諸国において社会主義が崩壊するに至ったのは、主に党イルクンが自分の責任と本分を全うできなかったことと関連する」と主張している。二点目は、幹部の不正腐敗を前提としていることで、「もちろん、イルクンが人民と生死苦楽を共にする覚悟を持って、人民のために献身奮闘し謙遜で公明正大であるのみならず特典、特恵を望まず清廉潔白に事業し生活するということは、言葉のようにたやすいことではない」とした上で、その実践を訴えていることである。これら表現からは、北朝鮮指導部が、幹部の不正腐敗が日常化しており、かつそれによる党と大衆との結びつき、支持の空洞化が体制瓦解を招きかねないとの危機感を抱いていることがうかがわれる。

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 ちなみに、この評論が掲載された25日に開催された「迎春記念公演」は、金正恩、李雪柱夫人、金予正らと並んで、処刑された張成沢の夫人・金慶喜金正日実妹)も観覧したそうである(26日、写真付きで報道)。

 同女の6年余ぶりの動静公開については、韓国報道などでは「白頭の血脈」強調の文脈から解説しているようだが、どうだろうか。むしろ、上掲2番目の「立ち遅れた人」を見捨てないとの文脈から考えることも可能ではないだろうか。親族の政治的問題により累が及ぶのが一般的な北朝鮮において、反革命分子として処刑された者の妻でも、復権しうるということを示すことの意味(社会的影響の広範さ)は、無視できないと考えられる。

 もちろん、金慶喜復権は、張成沢の影響が完全に払拭され、それが金正恩の指導権に脅威を及ぼすおそれがなくなったことが大前提になっているのであろうし、あるいは、それ以外の様々な背景事情が存在する可能性もあり、引き続き慎重に検討すべき課題と考える。