rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2月25日 社説「すべての部門、すべての単位で人材育成事業により大きな力を注ごう」

 

 標記社説は、「今日の時代は、人材によってすべてのことが決定される知識経済時代である」との時代認識に基づき、とりわけ科学技術分野を念頭に、人材育成の重要性を主張し、それを進める上での留意点を示すものである。

 留意点の第一は、「自己の部門、自己の単位に必要な人材力量は自体で整え育てなければならない」ということである。そのための具体策として、「(各企業所などに設置されている)科学技術普及室の運営を粘り強く実質的に行う」こと、すなわち、そこを拠点として「幹部と従業員に学習課題を明白に計画的に与え、学習状況を定期的に判定し、彼らを自己の部門、自己の職種の科学技術に精通した知識型勤労者としてしっかり準備させる」ことなどを求めている。

 第二は、「党中央と思想と志、歩みを共にする真の革命人材を育てる」ことである。「理論だけ知って実践できない『글뒤주(理論家の意味か?)』、知識と才能を個人の富貴と安逸のための資本とみなす人は、我が革命にいかなる使い道もない」のであり、そういったタイプにではなく、「ただ領導者だけを固く信じ従い、朝鮮労働党の赤い旗幟の下でのみ科学研究を行う信念の人間として」育てなければならないとの主張である。望ましいタイプの描写は、ほかにも「自分の地に足を着け、目は世界を見る主体が確固たる人材」「民族自主、民族自存の精神が骨の中にまで刻まれた革命人材」「先進技術を導入するにしても我が国の具体的実情と条件に合わせて取り入れ、何か一つ作るにしても見本模倣型ではなく、開発創造型で、我が国の独占物となるようにする民族的自尊心が強い発明家」と続く。要するに、科学技術者に対しても、思想性は必須の要求であり、外国の先進的情報は利用しても、「舶来崇拝」になってはならないということである。

 第三は、「人材を大切にして盛り立ててやり、人材育成事業に投資を惜しまない気風を徹底して確立する」ことである。そのためには、「(青年科学技術者らに)強国建設全域において成し遂げられている成果を直接見て経験を交換することができるよう参観事業も積極的に組織してやり、新しいもの、世界的なものを多く見せてやり、彼らが見聞を広め競争心を高めるようにしてやる」などのきめ細かい指導・支援が必要としている。同時に、「自分の部門、自分の単位の科学者、技術者に立派な研究室と実験設備を整えてやり、直ぐには成果が表れなくても、自分の単位の前途を考えて科学研究事業に大胆に投資する気風を確立する」ことも求めている。

 四番目は、党組織による「党的指導」を強化することである。「当面生産にのみ汲々として人材育成問題を疎かにする傾向、人材を大切にし、積極的に活用する代わりに古い知識と経験にだけしがみつく・・ような誤った思考観点と執務姿勢との闘争を強く展開」することなどを求めている。このような「闘争」は、おそらく企業所等の経営陣を対象とすることを想定しているのであろう。彼らの消極姿勢を党の指導により是正しようというのである。

 以上のうち特徴的と言えるのは、やはり二番目の思想性重視の訴えである。それが可能か否かはともかく、指導部としては、そのような配慮の下で科学技術人材の育成を進めようとしているということであろう。

 また、四番目の党の指導性発揮という主張も、一般的な印象としての、「党=思想重視VS経営陣=効率・技術重視」という図式には反するもので、注目される。経営陣における守旧的傾向の強さという背景があるのであろうか。

 なお、一番目に出てくる「科学技術普及室」というのは、企業所などに設けられた科学技術に関する学習センター的施設であるが、かつては、「主体思想研究室」(現在は「金日成金正日主義研究室」に改称)における思想教育が盛んに推奨されていたことと比較すると、隔世の感を禁じ得ない。これも金正恩時代の特徴の一つと言えるのではないだろうか。