rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月2日 金正恩が順川リン肥料工場竣工式に出席、テープカット(5月3日訂正補筆)

 

 しばらく姿を見せず動静に注目が集まっていた金正恩の標記動向(5月1日)が報じられた。

 同竣工式の出席者としては金正恩のほか、朴奉柱前総理、金才竜総理、党副委員長金徳勲、同朴泰城、党第一副部長金与正、同趙桶元の名前(一部音訳)がこの順番で報じられた。しかし、竣工式主席壇の着席位置をみると、金与正が金正恩のすぐ右側(むかって左側)に座っているように見える。このとき朴奉柱は竣工辞を述べていて座っていないが、おそらく金正恩のすぐ左側が彼の席で、その左に金才竜が座っている。要するに、金与正は、朴奉柱とほぼ同等、2人の党副委員長はもとより金才竜よりも格上の形で着席したことになる。【5月3日補筆:労働新聞の写真では、上述のように見えたが、今日見たテレビ映像に主席壇の全景が写っており、それでは、金正恩の左側に金才竜以下3人が座っている。金正恩は当然中央に座るであろうから、そうすると、朴奉柱の席は、金正恩と金与正の間ということになる。つまり、金正恩の両脇は、朴奉柱と金才竜であり、金与正は、その外側に座ったということになる。それでも、名前の報道順よりは、上位に座っていることになるが。】これをもって直ちに「ナンバー2の地位」とする韓国報道は、以前にも書いたとおり性急に過ぎると思うが、ここでも彼女が着実に存在感を増していることは否定できない。【5月3日補筆:昨日書き忘れたことだが、金与正は、他の同行幹部と異なり、金正恩の工場構内の視察時の写真には姿がない。出てくるのは、上記主席壇の着席写真とテープカットの時に金正恩にはさみを渡す姿だけである。これは、彼女の役割・位置づけが他の幹部とは異なる独特のものであることを象徴的に示しているように思われる。このことも、韓国報道のような、彼女を単純に幹部序列の中に位置づける見方に賛成できない理由の一つである】なお、誠に卑俗なことながら、金正恩のテープカット場面の写真では、金与正のなかなかの脚線美が拝める。お宝写真と言えよう。

 いずれにせよ、同報道で、その間の「金正恩健康異変」(なかには「死亡」)説をめぐる騒動は収束したことになるが、それに関連していくつかコメントしておきたい。

 まず、「異変」説を伝えた情報源、それを報じたメディアには、反省及び検証(できれば退場)を強く促したい。

 一方、「健在」を強調した韓国政府の対応も、適切であったのかと言えば、疑問に感じる。今回は、結果的に面目をほどこした形だが、本当にどこまで把握できていたのかは不明であるし、仮に把握できていての見解表明であったとして、将来、同様の状況が生じ、そのとき動静が把握できなければ(あるいは表明するのが不適当な状況であったとすれば)、どう対応するのか、「今回は分かりません、言えません」と言うのか、苦しい立場にならざるをえない。そういう意味で将来に禍根を残す対応であったと考える。そういった判断よりも、総選挙圧勝を契機に南北関係を再始動したいとの政策的願望が先行して、それに冷水を浴びせるような情報は許せないという思惑からの行動であったように感じられる。

 次に、今回は健在であったが、それでも今後の可能性として、生身の人間である以上、金正恩の「万一」の場合について想定しておく必要があるということは、繰り返し指摘しておきたい。

 ただ、その場合、今回も名前が挙がったが「金平日」については、後継者となる可能性は極めて低いと考える。何故なら、今日の北朝鮮体制は、金日成一人ではなく、「金日成(+金正淑)→金正日」を基盤として形成されているのであって、金平日(後妻の子)がその上に乗ることはできないからである。こんな形で名指しされて一番困惑しているのは、痛くもない腹を探られかねない立場に追いやられた彼自身であろう。「元同僚」の発言は、そういう意味でも、誠に無責任と言わざるを得ない。

 他方、金与正を「後継者」とすることについて、韓国内では「家父長思考の強い北朝鮮で女性の最高指導者は受け入れられない」との指摘があったようだが、私から見れば、そういった伝統的(儒教的)思考の影響に関し、北朝鮮が韓国よりも濃厚といえるのか疑問に感じる。韓国で女性大統領が保守層の支持で生まれたのであれば、北朝鮮で「女性」であるということだけで最高指導者としての可能性を排除できるとは言えないのではないだろうか。もちろん、現時点で彼女がそれだけの実力があるかと言えば前述のとおり否定的であるが、それはまた別の問題である。