rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月10日 金才竜総理の「現地了解」活動

 

 金才竜総理が、安石(音訳)干拓地建設場及び亀城製塩所を現地了解したことが報じられた。同人の現地了解は、かねてしばしば報じられており、そのこと自体は特段注目すべきことでもないが、指導内容について関心をひかれる点があったので、紹介したい。

 同総理は、干拓地建設場では、「建設者たちの闘争を鼓舞し、内部網工事を共に進め、先進的な工法を積極的に導入し原価を最大限に下げるための対策的問題を強調した」とされる。また、亀城製塩所では、「科学技術に徹底して依拠し自然エネルギーを積極的利用するための対策を立て、人材力量をしっかりと整えるなど単位の内的動力を強化」することを強調するとともに、「現地で行われた協議会において、経済的テコを合理的に利用するための問題が討議され」たという。

 ここで注目されるのは、以上の指導内容に「原価」「経済的テコ」など市場経済的要素が色濃く盛り込まれていることである。「科学技術」重視の訴えは、最近の基本路線に即したものであるが、市場経済的要素の活用は、公式報道などを見る限りでは、このところ余り強調されることのない論点であり、それについての強調にはそれなりの意味があると考えることが許されよう。

 何故それに注目するかというと、それが同人の経済政策における志向性を推測する上での一つのヒントになると考えられるからである。

 同人が昨年4月、総理に就任した際の前任者は、朴奉柱である。同人については、金正日存命時に総理として改革的傾向のある政策を展開したが(2003・9~07・4)、その副作用などの責任を問われるかたちで更迭されたとして、改革志向的な傾向を有するとの見方が有力であった(ただし、金正恩時代になって総理に再任された(2013・4)後は、そのような傾向を鮮明に打ち出したわけではない。それについて、前回の教訓に学んだとの見方もある)。

 では、その後任である金才竜は、いかなる志向を持つ人物なのか、それを推測することは、朴奉柱にかえて彼を選んだ金正恩が経済を基本的にどのような形に進めようとしているかを判断することにもつながる。

 ちなみに、金才竜の略歴を見ると、2010年8月当時は、平安北道党委員会秘書といわば無名の存在であったが、金正恩執権後に2012年3月金日成勲章を受章、2015年2月、慈江道党責任秘書と急上昇を遂げている。その後、2016年5月の第7回大会で中央委員に選出され、2019年4月、党政治局委員に抜擢されるとともに内閣総理に就任している。この経歴を見る限りは、経済部門幹部の経験はなさそうで、おそらく党官僚出身と思われる。この点、企業の責任者や経済閣僚などを歴任した朴奉柱とは対照的である。最大の特徴は、金正恩時代に入ってから抜擢された人物であることといえようが、金正恩が彼のどのような点を評価し、何を期待して総理に抜擢したのかが注目されるわけである。

 言うまでもなく、上掲の現地了解に際しての指導内容だけをもって金才竜の政策傾向を判断することは早計の至りであろうが、それを判断する材料が乏しい中で、一つの素材として記憶にとどめておく価値はあると考え、紹介した次第である。

 なお、「金才竜」については、聯合ニュースは「金在龍」としているが、本ブログでは、従前からの経緯もあり、あえて、この表記とした。