rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月11日 金才竜の「現地了解」再論

 

 昨日、思いつきで金才竜が「現地了解」の際に「市場経済的要素」について言及したと報じられていること(11日付け記事)を紹介したが、1回の内容だけで論じるのは余りに無責任と反省し、今年に入ってからの彼の「現地了解」報道(本日付け掲載分までで14回。ただし、ウイルス感染症中央防疫指揮部及び平壌総合病院建設場への視察は除く)を遡って検証してみた。

 結果、「市場経済的要素」に関連すると考え得る言及内容が報じられていたのは、昨日紹介分のほかに次の5回であった(日付は記事掲載日。地名・企業名等は音訳含む)。

・2月17日:「長山鉱山において金才竜同志は、幹部達が経営戦略を正しく立て」るよう強調。

・3月15日:「金才竜同志は、殷律鉱山と載寧鉱山の実態を具体的に了解して、現存生産潜在力を余すところなく発動し、経営活動を創造的に実利があるように行っていくことについて強調した」「平壌炭鉱機械工場と順川機関車工場を現地了解し、経営管理、企業管理を実施し、新たな指標の生産を打ち立て・・・」「協議会では現実的条件に合う企業経営方法を適用して生産を活性化し・・・」

・4月12日:順川リン肥料工場建設場において、「経済指導幹部達が工場運営において原価計算を正確に行い、原料の質を保障することについて強調した」

・4月19日:東平壌火力発電所において、「経営管理、技術管理を実施し、原料消費基準を積極的に低下させ、節約事業に力を注ぐことについて強調した」

・5月5日:金策製鉄連合企業所、茂山鉱山連合企業所、清津製鋼所、富嶺合金鉄工場視察時の各地での協議会において、「幹部達が自分の単位の実情に合うよう経営管理、企業管理を科学的に実利があるように行い、現存生産能力を最大限発揮」することなどに言及。

 要するに14回中6回、以上のような指導を行ったことが報じられことになる。もちろん、その内容は、上述のとおり「経営戦略」への言及といった程度のものも含まれており、それをもって、金才竜が真に「市場経済的要素」の導入に積極的であると見る根拠と言えるかといえば、慎重にならざるをえない。

 ただ、これは、労働新聞が「現地了解」時の指導内容をごく短く要約して報じた部分に現れた範囲であることを勘案すると、実際には、これ以上の頻度で、また踏み込んだ形で、それらの導入・適用を指導している可能性も否定はできない。とりわけ、仮に労働新聞の側に、そういった要素についての報道に消極的な傾向があるとすれば、そのような可能性はより現実的なものとなろう。

 ちなみに、金才竜が昨年4月11日に総理に就任以降、昨年報道された「現地了解」活動は、(私の記録では)30回であった。それらもすべて確認すれば、分析の精度を上げることができると思うが、今日のところはそこまで気力が湧かないのが実情で、とりあえずのプレリミナリーな報告でお茶を濁させていただいた。