rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月8日 金与正は、実際には序列何位なのか?(多分、第5位) 

 

 このところ金与正に注目が集まっている。ただ、「実質ナンバー2」という一部報道は、現状では過大評価であるというのが本ブログの主張である。では、実際には何位なのか。金与正が2020年5月1日の金正恩の順川リン肥料工場竣工式出席に同行した際の報道振り及び着席順を根拠として、同女の位置づけを検討してみた。

 まず、このときの同行者についての「労働新聞」(2日付け)の報道ぶりから見ると、朴奉柱(政治局常務委員・副委員長)について単独で同行を報じた後、金才竜(政治局委員・総理)及び「党中央委員会副委員長である金徳訓同志, 朴泰成同志」そして「党中央委員会第一副部長である金与正同志, 趙勇元同志」の5人の名前をあげている。つまり、報道ベースでは、金与正は、6人の同行者のうち、5番目に位置付けられていたといえる。

 これは、党の公式序列に沿ったものと考えられる。朴奉柱(前総理)は、金正恩崔竜海とともに政治局常務委員会を構成する3人のメンバーの1人である。また、金才竜は、常務委員会メンバーではないが、総理として、「現地了解」活動が個別に報じられる立場にあり、(現在、そのような報道がなされるのは、崔竜海、朴奉柱と同人の3人だけ)、各種報道において、この3人は別格の扱いを受けている。

 次に、金徳訓(1961年生)は、2011年12月・慈江道人民委員会委員長 2014年4月・副総理、 2019年4月・政治局候補委員などの経歴を経た後、すなわち昨年12月末の党中央委第5次全員会議で党副委員長、政治局委員に選任された人物であり、本年4月の最高人民会議では予算委員会委員長にも選任されている。

 また、朴泰成は、2014年5月・平安南道党委員会責任秘書(その後名称変更により委員長)、2016年5月政治局候補委員などの経歴を経て、2017年10月、党副委員長、政治局委員に選任された人物であり、2019年4月の最高人民会議において同会議議長にも選任されている。

 要するに、この両名は、政治局委員として、同候補委員である金与正よりも格上の立場にある。

 最後に趙勇元は、2014年12月から党組織指導部副部長の地位にあることが明らかになっていることから同部生え抜きの党官僚とみられ、金正恩の現地指導への同行を報じられる回数の多い幹部の一人と言えよう。2016年5月の第7回大会で中央委員に選出され、2019年4月、政治局候補委員、組織指導部第一副部長に抜擢されている。したがって、金与正が昨年12月に同部第一副部長に、本年4月に政治局候補委員になったことからすると、同女より「先任」ともいえる。しかし、前述のとおり、報道の順番で既に金与正の後ろに位置付けられている。

 それでは、竣工式主席壇における実際の着席状況はどうだったのか。

 労働新聞に添付された写真に写っているのは、竣工辞を述べるため主席壇の右端(向かって左端)に設けられた演壇に立つ朴奉柱、そして主席壇右側(向かって左側)から左に向かって順に、金徳訓、金与正、金正恩、金才竜、朴泰成の5人が着席している姿である(趙勇元は、写っていないが、おそらく朴泰成の更に左側に着席していたのであろう)。

 労働新聞にこの写真だけが掲載されたために、金正恩の隣に金与正が着席したかの報道が外部でなされた(本ブログでも当初そのように解釈した)。しかし、この時、朴奉柱は、本来の席を離れているのであり、実際には、金正恩と金与正の間に朴奉柱の席があったのであろう。

 そのことを証明するのが、聯合ニュースの「国会情報委、今日全体会議・・国情院金正恩懸案報告」と題した記事(5月6日付け)に付された竣工式主席壇の別の写真(テレビ放送をキャプチャーしたものであろう)である。そこには、主席壇右側の演壇に朴泰成が立ち、テーブルには右端から左に向かって、金徳訓、加工映像のための間隔(おそらく金与正がいたのであろう)をおいて、朴奉柱、金正恩、金才竜、やや間隔をおいて趙勇元が、いずれも立っている姿が写っている。

 したがって、全体を総合して勘案すると、このときの実際の状況は、中央に金正恩、その右側(向かって左側)に朴奉柱、金与正、金徳訓が、左側に金才竜、朴泰成、趙勇元の7人が着席したとのではないだろうか。

 このような着席順に基づく序列を考えると、中央の金正恩以下、その右・左・右・・・という順番で、朴奉柱、金才竜、金与正、朴泰成、金徳訓、趙勇元となろう。すなわち、金与正は、公式序列上は格上である政治局委員の金徳訓, 朴泰成の両人を実際の着席順では、逆転したことになる。

 したがって、同竣工式の着席順を一般化することができる(このとき限りのものではない)とすれば、金与正の実際上の地位は、金才竜の下、その他の政治局委員の上に位置付けられていると考えられる。この地位を敢えて数字で示せば、彼女の実際上の党内序列は、金正恩以下、崔竜海、朴奉柱、金才竜に次ぐ第5位と言うことができよう。

※ 上述の個人の略歴などは韓国・聯合ニュースの人物検索のデータによる。