rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年8月22日 金正恩平安南道干拓地の被害復旧現場を現地指導、内閣総理らを猛批判

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が8月21日、平安南道干拓地建設総合企業所安石干拓地の被害復旧現場を現地指導したことを報じる記事を掲載した。同記事の骨子は、つぎのとおりである。

  • 出迎え者:趙甬元、金才龍、強純男、鄭京擇、金正官、朴正天(「被害状況と復旧実態について詳細に報告」)
  • 被害状況:「平安南道干拓地建設総合企業所で、南浦市温泉郡石峙里にある安石干拓地の堤防に排水構造物設置工事を質的に行わなかったことから海水の影響で堤防が決壊して水稲を植えた270余ヘクタールを含む総560余ヘクタールの干拓地区域が冠水」
  • 今次災害への対応に関する批判:金正恩が「内閣総理は傍観的な態度で現場を一度や二度見て回って帰り、副総理を派遣するのにとどまり、現場に出向いた副総理という者は燃油供給員の役しかせず」、「政府の指導幹部と地方の行政・経済幹部(は)・・軍隊が全的に取り掛かってやってほしいという姿勢であり、また、当然そうすべきだというふうの図々しくて不遜極まりない態度」、「(今次被害を招いた)下部単位の誤った働きぶりも問題であるが・・(それを)内閣が全く知らなかったというのは行政・経済規律がどんなに乱れているかを見せる端的な実例」などと批判
  • 内閣総理に対する批判:「最近の数年間に金徳訓内閣の行政・経済規律がだんだん劇甚に乱れ、その結果、怠け者らが無責任な働きぶりで国家経済事業を全て駄目にしている」、「内閣総理の無力な活動態度と歪んだ観点にも大いに問題がある」、「国の経済司令部を導く総理らしくなく、人民の生活に責任を持った主人らしくない思考と行動に遺憾を禁じえない、内閣総理の無責任な活動態度と思想観点を党的に深く検討する必要がある」などと指摘
  • 幹部への検閲指示:「党中央の呼び掛けに呼吸を合わせることを知らない政治的未熟児、警鐘を警鐘に受け止めることを知らない知的低能児、人民の生命・財産の安全に顔を背ける官僚のやから、党と革命に対して担った責務に不誠実な者らを絶対に許すことができない、党中央委員会組織指導部と規律調査部、国家検閲委員会と中央検察所が責任ある機関と当事者を探し出して党的、法的に厳しく問責し、厳格に処罰することについて命令」、「金正恩総書記の命令によって、干拓地建設局、国家建設監督省、平安南道干拓地建設総合企業所、南浦市国土環境保護管理局、南浦市建設監督局に対する集中検閲が始まる」
  • 今後の課題:「干拓地被害復旧事業を最短期間内に早めて終えることについて強調」、「全国の全ての農業部門が天災に備えるための予防措置を各方面から実施して、被害を徹底的に克服しなければならない」、「今回の事件を起点にしてこれ以上、無防備、無能力による無謀な被害、特に無責任さによる人災が発生しないように実のある予防対策を抜かりなく立てることについて強調」

 金正恩の前述のような内閣総理らに対する厳しい批判は、先般の江原道台風被災地視察時に「このたび(の被害)を契機にもう一度、自然災害防止能力を備えるための国家的な事業体系に警鐘を鳴らさなければならない」と災害防止を訴えた(8月14日報道)矢先であるにもかかわらず、不十分な工事に起因した干拓地の堤防決壊という事故が起きたばかりか(台風を契機としたものか否かは不詳)、それへの内閣、行政機関等の対応が軍に依存するばかりで主体性を欠いていたことを契機として、行政・経済幹部の保身主義、マンネリズムなどに対する積年の不満を爆発させたものとみられる。

 もちろん、添付写真を通じてそれとは対照的に腰まで水につかって被災地の復旧を指導する金正恩の姿を示すことにより、同人の国政に対する熱意を実感させるとともに、全国の農業部門に自然災害への予防徹底などを改めて督励する狙いが込められていることは間違いないであろう(記事では、前掲「今後の課題」の部分を太字で表記)。換言すると、全国の行政・経済幹部らの覚醒・奮起を促すための「一罰百戒」的な批判であったともいえよう。

 とは言え、近年、経済現場への「現地指導」回数を極度に減らした金正恩に代わる形で、2020年8月の就任以来、文字通り席の温まる暇もないほど東奔西走して経済部門等に対する「現地了解」を繰り返すなどしてきた金徳訓総理がこうした形で批判(おそらく更迭)されるのは、傍目に見ると哀れに思えてならない。果たして次の総理は誰になるのだろうか。 

 まったくの余談だが、報道によると、北朝鮮は、日本政府に対して、8月24日から31日の間に人工衛星を発射することを予告し、北朝鮮南の黄海とフィリピン付近の危険水域を通告してきたとのことである。政権樹立75周年にあたる「9・9」節に向け、先般失敗におわった偵察衛星の打ち上げを企図しているのであろう。それについては、打ち上げ結果を見て論じたい。