rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月3日 論説「思想事業は、親人民的、親現実的でなければならない」

 

 標記論説は、冒頭、思想事業の重要性を力説する。その中には、「国産化再資源化の秘訣も大衆の精神力発動にあり、科学技術力の増大も、旧態と硬直からの脱皮も強い思想戦によって担保される」との主張もあり、「思想事業」を「科学技術振興」などの目標に背反するものではなく、むしろそれを促進・担保するものと位置付ける発想を示しており、興味深い。

 その上で、「思想事業」の在り方として、まず「親人民的」であることを要求する。ここで「親人民的」とは、対象者の個性に即したものであることを意味しているようである。そのため「人ごとに性格と水準、習慣と趣味、考えと要求が互いに異なる。彼らの心との事業を基本とする思想事業を人々の心情と態度は無視して一律的に、押し付けるように行っては効果を上げることができない」と主張する。

 次に、「親現実的」であることだが、こちらも「固定格式化した枠にはまった話、非現実的で誇張された騒がしい表現、模倣や踏襲で一貫した教育は、むしろ大衆の革命性を弱める逆効果をもたらすことになる」と、形式的な内容・方法の批判から始まる。

 ここで興味深いのは、「人民」に対する認識である。すなわち、「今、我々の人民は過去の人民ではない。敵対勢力どもの悪辣な策動の中で山戦海戦をみな経て、周辺世界をみな目撃し、聞くこともみな聞いた人民である」との見方が示されている。その上で、「このような人民に現実とまったくかけ離れた話をしたり、一般的な訴えを教えるようにしたりしたのでは、多くの宣伝力量が動員され少なからぬ時間と手間をかけたとしても、大衆を感興させることも、呼び起こすこともできない」と主張する。おそらく、これが現実に起きていることなのであろう。

 ではどうすべきか、「彼らが知りたがっていること、聞きたがっていることを党政策に立脚して(人民の)耳にしっかり入るように宣伝してこそ思想の浸透力、思想事業の実効性を高めることができる」と主張する。

 そのような活動をおこなうためには何が必要か。「知っていることが多くてこそ親人民的、親現実的に思想事業を行うことができる」のであるから、幹部自らの学習が必要として、例えば「白頭山絶世偉人たちの革命領導史を深く研究体得」することを要求している。

 このような主張自体、「言うは易し行うは難し」の要求のようにも聞こえるが、ここで示された北朝鮮指導部の率直な「人民観」は、注目に値するものである。

 なお、余談だが、ここで用いられている「親〇〇的」という表現は、昔は余りみかけなかったように思うのだが、どうなのだろうか。あえて「親」を付さなくても、「人民的」「現実的」で意味は通じるであろう。これこそ「誇張された騒がしい表現」ではないだろうか。