rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

7月19日 党中央軍事委員会の第7期第5回拡大会議及び非公開会議を開催

 

 標記の会議が7月18日に金正恩の指導の下で開催されたことが報じられた。

 まず、各会議の開催状況は、報道写真等も含めて整理すると次のとおりである。

 第7期第5回拡大会議は、主席壇に金正恩と李炳哲軍事委副委員長が着席、これに対面する形で、他の軍事委委員に加えて、軍種・軍団級単位の指揮官と政治委員、総政治局・総参謀部・人民武力省の幹部及び各級武力機関の指揮メンバー、党中央委員会主要部署副部長らの傍聴者らが着席した。主席壇向かって左側の演壇では、専ら金正恩が演説する姿だけが報じられている。

 一方、党中央軍事委員会非公開会議は、拡大会議会場よりも小さな部屋で、長方形のテーブルに金正恩を中心として、その右手に6人(筆頭は李炳哲)、左手に5人(同・朴正川総参謀長)の計11人が向き合って着席し(うち軍服着用者は8人)、左側後方の別テーブルには4人(同1人)が控える形で着席している。なお、この部屋の壁面には、受像機のようなものが多数はめ込まれており、「指揮センター」的な雰囲気を醸し出しており、限定メンバーによる秘密会議という印象が演出されているといえよう。

 各会議での討議事項等については、次のように整理できる。

 拡大会議では、①「人民軍指揮メンバーの政治思想生活と軍事事業で提起される一連の問題を指摘」、②「人民軍隊の指揮官、政治将校に対する党的教養と指導を強化する問題を討議」、③「新世代指揮メンバーを我が党の革命思想によりより徹底して武装させる・・・ための具体的な方向と方途を提示」、④「武力機関の主要職制指揮メンバーの解任及び任命」がなされた。このうち、①から③までは、一体的なものと考えら、要するに軍幹部に対する政治教育・指導の徹底が図られたということであろう。④の「武力機関」は、護衛司令部、国家保衛部、人民内務軍などを含むものであろう。

 非公開会議は、「朝鮮半島周辺で醸成された軍事情勢と潜在的な軍事的脅威に対応するための重要部隊(複数)の戦略的任務と作戦動員態勢を点検し、国の戦争抑制力をより一層強化するための核心問題を討議」することを狙いにしたものとされ、「核心的な重要軍需生産計画指標(複数)を審議し承認した」とされる。

 以上のような会議運営方式(本会議後の非公式会議開催)が報じられるは異例のことであるが、そこでの審議・決定内容自体は、いずれも従前の延長線上にあるといえる。

 まず、拡大会議における軍指揮官に対する政治教育・指導の強化・徹底は、これまでも繰り返し強調されてきたところである。強いていえば「新世代指揮メンバー」との表現が目新しいとも言えるが、かねて社会全体について「(革命以前の苦労を知らない)新世代に対する思想教養強化の必要性」が繰り返し強調されていることを勘案すると、それが軍においても適用されているだけで、驚くべきことではないであろう。

 次に、「戦争抑制力強化」のための「核心的な軍需生産計画指標」の「審議・承認」についても、第3回会議(2019年12月21日)で「自衛的国防力を引き続き加速的に発展させる核心的問題」の「審議」が、第4回会議(5月24日報道)において「国の核戦争抑制力をより一層強化し、戦略武力を高度の撃動状態において運営するための新たな方針」の「提示」が、また今次会議の予備会議(6月23日)で「国の戦争抑制力をより強化するための国家的対策を反映した諸文献」の「研究」が、それぞれ報じられてきたことを勘案すると、それらの延長線上における措置といえよう。

 もちろん、これら一連の報道は、明らかに「核開発」の再開ないし加速を示唆するものであり、それによって米国の焦りを誘うことを狙いにしたものと考えられるが、その進め方は、上述のとおり、まさにステップ・バイ・ステップというべき、慎重なものであることに留意すべきであろう。

 仮に、北朝鮮が核開発再開を決意し、それによるサプライズを企図しているのであれば、「予備会議」や「非公開会議」の決定事項はもとよりその開催についても、あえて異例の報道を行う必要はないわけであり、そのような報道自体が、何とかして米国の関心を引き付けよう(ただし、怒らせないようにして)との思惑を反映していると考えられる。北朝鮮が、今後、この慎重さを突然かなぐり捨てるということは、外部から特段の挑発でもしない限り、考えにくいのではないだろうか。そのような意味で、当面、米朝関係は、神経戦のような動きが続くと予測される。

 余談だが、ニュース映像によると、拡大会議で金正恩は、厳しい表情で相当興奮したような話し方をしており、軍内の諸問題について、相変わらず手厳しい批判を加えたものと思われる。