rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

7月26日 論説「我が世代が従い学ぶべき戦勝世代の高潔な精神世界」

 

 標記論説は、7月27日の「祖国解放戦争戦勝記念日」(停戦協定締結日)に際して、「第6回全国老兵大会」が開催されるのに合わせて掲載されたものと考えられる。

 論説は、「戦勝世代」から学ぶべき「高潔な精神世界」の主な要素として、次の3つをあげ、それぞれの今日的意義を論じている。

 第一は、「首領に対する絶対的な信頼」である。そして、それは、今日的状況に即して言えば、「敬愛する元帥様(金正恩)を固く信じ従い奉じる」ことにつながると主張する。

 第二は、「英雄的犠牲精神」である。「戦勝世代の闘争精神は、今日の正面突破戦に奮い立った我が党員と勤労者にあって大切な思想精神的糧食となる」と主張し、「すべての党員と勤労者が戦争世代が発揮した英雄的犠牲精神で生き、闘争する」ことを訴えている。

 第三は、「命の最後の瞬間まで祖国の富強繁栄のため献身する高潔な人生観」である。「1950年代の祖国防衛者は、祖国の守護者であると同時に社会主義建設者であった」こと、すなわち、彼らが戦後復興時期における「千里馬時代の英雄叙事詩と自主、自立、自衛の社会主義国家を打ち立てた誇らしい年代」の主役でもあったと主張し、「常に党と首領を心から奉じ祖国の富強繁栄に血と汗を惜しみなく捧げた戦勝世代の崇高な人生」に学ぶことを求めている。

 歴史的事実に即して言えば、朝鮮戦争参戦者のすべてが現在の「首領制」の支持者となったわけではなく、むしろ、それが形成・確立される過程で排除・粛清された人々も少なからず含まれていたことは否定できない。しかし、戦後の1950~60年代から既に半世紀以上が経過し、その時代の出来事も半ば「神話化」されているようである。同論説の主張は、「老兵大会」の開催などとも一体となって、そのような「神話」作りの一環といえよう。

 ちなみに、本日の「労働新聞」には、同大会に参加する老兵たちが25日、各地から平壌に到着し、金日成金正日銅像に献花したこと、同日、党及び軍高官が老兵らの宿舎である「4・25旅館」を訪問し慰労したことなども報じられている。別項で紹介したとおりコロナの「特級警報」が発令される中でも、大会は開催されるのであろうか。

 余談であるが、韓国では過日逝去した、朝鮮戦争の英雄とされる白善燁将軍への国家としての礼遇をめぐり左右間に論難があり、統一部が板門店の「自由の家」を国連軍司令部の停戦記念日行事の会場に貸さないと言う(事後に貸すことに態度変更)など、朝鮮戦争についての評価に動揺がうかがわれる。一方、北朝鮮は、上述のとおり戦後復興も含めて「神話化」に余念がない。いずれ、どちらが侵略したのかも含め訳が分からない時代がくるのかもしれない。