rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

7月26日 党政治局非常拡大会議を緊急招集(加筆版)

 

 標記記事は、「悪性ウイルスに感染しているおそれのある越南逃走者(脱北者)が3年ぶりに分界線を越えて去る7月19日、帰郷するという非常事件が発生」したことを受けて、25日、政治局非常拡大会議が緊急招集されたことを報じたものである。

 同会議には、政治局メンバーが参加したほか、中央非常防疫指揮部メンバーが傍聴し、更に、内閣、省、中央機関党、行政責任幹部と各道党委員会執行員、道級指導機関責任幹部が「画像会議室(複数)において傍聴」したとされる。関係機関、地方ごとに集まって画像を通して傍聴したということであろう。

 同会議は、金正恩が「政治局の委任により運営執行」したとされる。ここは、通常は、「指導」とか「司会」とかの表現が用いられるところで、「運営執行」という表現は異例と思われるが、何を意味するかは不詳である。

 事案の流れ及び対応などを報道に基づいて整理すると、3年前に不法越南した者が7月19日に分界線経由で帰郷。(発病、当局の把握経緯などは不詳だが)上気道分泌物及び血液検査の結果、(おそらく23日にまでに)コロナ感染の疑いが発覚。それまでの5日間の開城市における接触者全員と開城市経由者を調査掌握の上、検診、隔離措置。中央に報告された24日午後には、開城市を完全封鎖、区域・地域ごとの隔離措置も実施。

 今後の対応措置として、「国家非常防疫体系を最大非常体系に移行させ、特級警報を発令」(関連の政治局決定を採択)し、従前以上の統一的・厳格な対応を指示。

 金正恩は、「皆が非常事態に直面した現実を厳重に受け入れなければならない」とし、「党中央の下に固く結集し、直面した防疫危機を打開することによって必ず我が人民の安寧と祖国の安全を死守しよう」と訴えたとされる。

 奇妙なのは、会議において、脱北者不法帰郷の責任に関連して、「越南逃走事件が発生した該当地域前沿部隊の疎かな前線警戒勤務実態を厳しく指摘」したとされる点で、このまま読むと、3年前の「越南逃走」が問題にされているようであるが、実際は19日の「帰郷」が当面の問題であろう。何故こういう書き方をしたのかは不詳であるが、今次報道の信ぴょう性を損ねる面があることは否定できない。

 そもそも、本当に報じられているようなことがあったのか、甚だ疑問と言わざるを得ない。これが事実なら、南北の自由往来は既に実現済みということになる。ただ、少なくとも、開城でコロナ感染が疑われる者が発見されたのは事実ではないだろうか。それも含めて、すべてが国内引締めなどのための「自作自演劇」と言えないこともないかもしれないが、敢えて今、そこまでする必要があるとは(私としては)考えにくい。

 なお、昨日の本ブログで検討した「金与正執権」説との関連で言えば、仮にそのような状況があるなら、ここでも彼女の存在感を示してもいいのではないかと考えられるが、そのような気配はまったくない。報じられた会議場の写真でも、彼女の姿はかすかに識別できる程度であり、着席位置も従前と変わらない(序列的に言えば10数番目の位置)。彼女の「存在感」発揮の局面については、慎重にコントロールされていると考えるべきであろう。

 以下、26日午後9時加筆

 前掲の記事は、昼過ぎに書いたのだが、その後、夜になって韓国のニュースを見ると、実際に北朝鮮の主張と符合する行動をとったらしい脱北者が特定された由で、驚かざるを得ない。同報道によると、同人物は、開城出身で脱北の際も漢江河口付近を泳いで来たそうで、今回も、また、そこを泳いで帰ったらしいとのこと。強姦容疑で取り調べを受けており、拘束令状も発布されていたという。

 開城付近と言えば、先般の南北共同事務所爆破があったところからも遠くない場所で、南北両軍とも厳しい警戒態勢にあるかと思いきや、共にそうでもなかったということが明らかになったわけである。付近の地理に詳しいとはいえ、個人でこういうことができるのであれば、特殊部隊などは南北共に事実上出入り自由ということになろう。

 ただ、そのような人物が北朝鮮で当局に身柄確保されたことは間違いないとして、本当に同人がコロナに感染しているのかは、別問題で、そういう人物の検挙を奇貨として、コロナ対策への覚醒(あるいはもう少し広い意味での国内引締め)などの狙いから、敢えて「感染の疑い」を強調している可能性も、なお排除できないであろう。

 ちなみに、韓国聯合通信の報道によると、拡大会議出席者の中には、政治局メンバーである党副委員長の李萬建(前組織指導部長)及び金徳訓(経済担当)、副総理である任哲雄、李龍男、金日哲(いずれも経済部門)の姿が見えないとのことで、平壌総合病院建設に際しての金正恩の批判と関連している可能性を含め背景が注目される。なお、金才竜総理も欠席だが、同人は、発電所などへの「現地了解」が26日に報じられていたことから、そのため出席できなかったものとみられている。

 いずれにせよ、北朝鮮の指導部内は、様々な意味で相当緊張した雰囲気にあると考えられる。内外動向ともに更なる注視が必要であろう。