rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

8月1日 朝鮮戦争停戦協定雑感

 

 去る7月27日が朝鮮戦争の停戦協定締結67周年に当たることは、本ブログでも紹介したとおりであるが、その折、同協定締結の意義について心に浮かんだことがある。

 周知のとおり、当時、韓国の李承晩大統領は同協定の締結に断固反対し、結果、韓国は協定の当事者とならなかった。その反対理由は、基本的には、彼のかねての目標であった「北進統一」実現の機会消失を意味したからであろうが、加えて「戦争を発起した金日成の責任を問うことなく、現状追認的に両軍の前線を休戦ラインとすることは、結果的に侵略行為を追認することになる」との考え方もあったと思われる。これは、国際法的な正義を基準とした場合、決して無視できない批判であろう。また、停戦協定は、北朝鮮に再び軍備強化の時間的余裕を与えるだけで、再侵略の可能性を完全に払拭するものではない、との懸念も存在したであろう。

 実際、北朝鮮はその後、目覚ましい戦後復興を遂げ、「4大軍事路線」の下、強力な国防力を建設し、長きにわたって韓国への軍事的脅威を与え続けた。更に、言えば、北朝鮮は、その後、長年にわたり、韓国への武装ゲリラ派遣、対韓テロ実行など、厳密に言えば停戦協定に違反する行為を続けてきた。そして、今日に至るまで「祖国解放戦争に勝利した」旨を喧伝し、それを体制強化に利用している。

 これら事情を勘案すると、停戦協定は、国際法的な正当性の面でも問題があり、その実効性などの点でも、決して十全なものではなかったといえる。

 しかし、それら停戦協定が抱える潜在的問題の存在が結果的に証明された現時点において、「後知恵」としてでも、同協定の締結が賢明なものでなかったという判断が下されるかと言えば、やはり、そうとは言えないであろう。今日、「あの時、李承晩大統領の判断に従っておけばよかったのに」と考える人は、韓国内も含めほとんどいないのではないか。それは何故かと言えば、大小様々な問題の「芽」を残したにせよ、「熱戦」状態を解消し、それに準じる状況の再現をその後67年間防止してきたという基本的効用が評価されているからであろう。

 そこで、それと対照して考えてみたいのが北朝鮮の「非核化」問題である。今日、「CVID」をはじめとする様々な目標が提示され、完璧な解決を求めてハードルを上げる余り合意が困難になっているのが実情であろう。いわんや、北朝鮮の核保有を認めることなど、国際法上の違法行為を追認するものとして論外とされている。

 今日、北朝鮮の核・ミサイル開発は、ある意味、トランプ大統領のお蔭で、事実上のモラトリアム状態にある。その意味で、国際社会の側は、現状が続くことに特段の「痛み」を感じずに済んでいる。一方、北朝鮮の側からすると、その間も経済制裁が継続している。北朝鮮がそのような非対称な関係をいつまで容認するかは、ひとえに北朝鮮の判断にかかっている。双方が何らかの形で「痛み」を感じなければならない状況に至る可能性はいつでも存在すると言わざるを得ない。

 そうした状況に備えて、あるべき北朝鮮との合意の在り方を検討する上で、前述のような意味での停戦協定締結の可否ないし意義などについて考えをめぐらしておくのも、まったく無益なことではないであろう。