rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

6月16日 「朝鮮人民軍総参謀部公開報道」

 

 本日の「労働新聞」紙上に標記が掲載された。先ほど(午前11時ころ)見たテレビのニュースでは、「非武装地帯に進出」の計画を公表などと報じられていたが、必ずしも正確ではない。

 同「公開報道」の主要部分を正確に整理すると、

① 軍は、「党中央委員会の統一戦線部と対敵関係部署」から、次の2点についての「意見」を受け取った。

 その第一は、「北南合意により非武装化された地帯に軍隊が再度進出して前線を要塞化し、対南軍事的警戒をより強化するための措置を取るための行動方案を研究すること」であり、

 その第二は、「地上戦線と西海海上の多くの区域を開放し徹底した安全措置を講究して、予見されている各界各層我が人民の大規模的な対的ビラ散布闘争に積極的に協力すること」である。

② 軍は、これら「意見を迅速に実行するための軍事的行動計画を作成し、党中央軍事委員会の承認を受けるであろう」。

ということになる。

 この「公開報道」からまず言えることは、かねて指摘してきたところであるが、北朝鮮が関連行動の段階を細かく刻んでいるということである。すなわち、この「公開報道」自体が、先の13日付け金与正「談話」の「次の対策行動の行使権は、我が軍隊総参謀部に渡そうと思う」との言明を受けたものであり、しかも、党からの「意見」を受け取ったことを明らかにしているだけで、軍としての何らかの行動計画なり決心なりを示したものではない。更に、今後も、「行動計画の作成」→「党中央委員会の承認」と進んで、その後にようやく実行されることになる。このような進め方は、いわば勿体をつけたものであり、そこからは、「着々と進めている」との印象を演出しようとの思惑が強く感じられる。

 次に今後の行動の具体的内容だが、前掲第一については、軍が進出するのは、朝鮮戦争停戦協定に基づく、いわゆる「非武装地帯」ではなく、南北合意で「非武装化された地帯」である。韓国報道では開城工業団地金剛山観光地区付近の一帯を指すとされる。「南北合意」事項の一部白紙化という象徴的な意味はあるが、その結果、軍事面で実質的な脅威がどれほど変化するかといえば、それほど大騒ぎするほどの出来事ではないのではないか。「要塞化」「警戒強化」などは、軍が配備されれば当然行われるべきことで、修辞に過ぎないといえよう。

 むしろ、注目されるのは第二の内容で、要するに、今後、北朝鮮側からも韓国に宣伝ビラを散布することを予告している。しかも、同活動には広範な人民を動員するという(軍の役割は、場所提供及び便宜供与が中心)。今、韓国の政権・与党サイドで、北朝鮮からの批判を受け、北朝鮮へのビラ散布を規制する法律を急遽制定しようとの動きがある中で、そのような活動を予告するというのは、果たして何を意味するのであろうか。北朝鮮がそのような行動に出るなら、当然、韓国内であえてビラ散布規制法を制定する必要があるのかという議論が起きることは必定であり(そうでなくても批判・反対が噴出している)、結果、南北双方からの宣伝ビラ散布合戦のような様相を招くことにもなりかねない。むしろ、北朝鮮としては、そのような状況を狙っているのではないか。それによって、「各界各層我が人民」の韓国への敵対意識を高揚させることができるからである。

 以上、軍総参謀部の「公開報道」について、とりあえずの紹介及びコメントを記した。本日の「労働新聞」紙上には、これ以外にも関連の論調等が掲載されているが、それについての言及は別項に譲ることとする。