rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

6月16日 金与正「談話」関連動向

 

 標記に関し、既に別項で紹介した「朝鮮人民軍総参謀部公開報道」以外の「労働新聞」の報道内容は、次のとおりである。

 まず、「透徹した階級闘争意志を満装薬した我が人民の革命的風貌」と題する論説は、「今、我々の徹底した報復戦が実現段階に入った」とした上で、文政権に対する認識として、「前では笑いを浮かべて脂ののった言葉で阿諛を連ね、後ろに回ると刃を研いで我が国家を抹殺するためあらゆる卑劣な行為を引き続き繰り消すのが南朝鮮当局である」と厳しい評価を述べるとともに、同政権が示す対応についても、「南朝鮮当局は遅れて事態収拾をしたかのように騒ぎ立てているが実際には我が人民の激怒をなだめ、今日の事態をごまかしてやりすごそうとの欺瞞劇に過ぎない」ときめつけている。そして、今後の対応としては、「南朝鮮当局者が自分たちがしでかした盲動がどれだけ後悔すべきもので辛いものかを骨身にしみて感じるときまで連続的な報復を加えようとの我が人民の意思は絶対不変である」として、一定の「報復行動」の実行を予言するものとなっている。

 また、「背信者とゴミどもを必ずや汚物桶に叩き込もう」との共通タイトルの下、情勢論解説と国内外に関する記事が各1件掲載されている。このうち、「我が人民を冒涜した罪価を千百倍で受け出すであろう」と題する情勢論解説は、前掲論説と異口同音に、文政権の対応を「このたびの事態と関連した南朝鮮当局者の態度を見ると、贖罪や反省の気配は少しも感じられない.・・・彼らが考案した『厳重対処方案』なるものも危機から免れるための一つの窮余の策に過ぎない」ときめつけ、「このような者とはただ行動によって確実に決別する道だけがあるのみである」と報復行動の実行を確言している。更に、その具体的内容については、「使い道のない北南共同連絡事務所なるものは跡形もなくなくなるであろうし、次の段階の行動措置も準備されている」として、連絡事務所の廃棄とは別にもう一段の措置があることを示唆している。後者については、「朝鮮人民軍総参謀部公開報道」において言及された対南ビラ散布活動を念頭においたものとも考えられる。

 国内動向に関する記事は、「天下の人間醜物どもの罪行を絶対に容赦しないとの固い意志 青年学生と各階層勤労者の抗議群衆集会と示威行進、集まりが連日開催」と題した写真付きの者であるが、内容は、「去る6日から9日まで平壌開城市南浦市をはじめとした全国各地で」の活動に関するものであり、最近の動向を伝えるものではない。

 一方、国外関連の記事は、「我が共和国の重大措置を全面的に支持賛同する 在中朝鮮人総連合会声明」と題するもので、11日に発表された「声明」の内容を紹介している。そこで注目されるのは、末尾近くの「南朝鮮当局は今からでも正気を取り戻し、誰かに忖度することなく、民族の利益を第一に置いて、朝鮮半島の平和と安定、共同繁栄に少しでも有益なことを探して行うことが多少でも民族の前に贖罪する道であることを銘記しなければならないであろう」との一節である。このような「南朝鮮当局」に何かを要求ないし期待するような主張は、他の論調等にはみられないものである。ここでの記載が北朝鮮の意向を反映したものなのか、在中朝鮮人総連合会の独自の見解なのかは判然としないが、少なくとも、「労働新聞」紙上で紹介されている以上、それは北朝鮮にとっても受け入れがたいものではないとも考えられる。

 「誰かに忖度することなく、民族の利益を第一に置いて、朝鮮半島の平和と安定、共同繁栄に少しでも有益なことを探して行う」ことは、今まさに文政権(及びその支持勢力)が目指しているところであるように見えるが、最近の北朝鮮の動向の結果、それが本当に受け入れられるものであるのかは極めて不透明なものとなっていた。しかし、そのような努力が北朝鮮当局によっても慫慂されるものであるとすれば、困惑の中にある文政権にとって、それはまさに「地獄に垂れてきた蜘蛛の糸」にも等しいものに映るのではないだろうか。

 まあ、北朝鮮の表現でも「南朝鮮当局が・・・(その罪の重さを)骨身にしみて感じるときまで」報復行動を続けると言っているのであるから、「それを感じたようだ」と判断すればいつでも止めることができるともいえる。終局点については、いずれは出現するとの前提の下、悲観も楽観も排して慎重・冷静に見極めていくことが必要であろう。