rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年1月9日 中央委員会事業総括報告の注目点など

 

 今日になってようやく標記報告の詳細な内容が明らかにされた。ハイライト部分は既に一般にも報道されており、また、報告に「9時間」を要したとされるほどの膨大な量であるので、とりあえずの注目点だけ指摘しておきたい。

 まず、その発表形式である。これまでの大会では、報告の原文が公開されてきたが、今回は、詳細とはいえ、これこれについて言及したとか強調したといった報道の形をとっている。「詳細な内容については党内本」の形で組織内に伝達されるという。各分野における問題点や国防建設関係などに機微な内容が含まれているためであろうか。

 報告の第1部分、「総括期間に収めた成果」については、内政面の成果として、国防建設(軍事力整備)に関する内容が詳細かつ長々と述べられていることが注目される。前回大会以来、前半は「並進路線」、2019年春以降は「経済建設集中」を掲げてきたものの、結局のところ、具体的に誇示できる成果は、軍事部門が大半であったということになる。

 一方、外交面での成果については、それなりに言及されているが、南北関係については、首脳会談開催などの大きな出来事があったにもかかわらず、まったく言及がなされていないことも注目すべきであろう。南北関係についての主張は、後半に言及されているが、「成果」としての言及がないということは、文政権との交流経緯についての北朝鮮側の失望感なり冷淡な認識が反映しているといえよう。

 報告の第2部分、「社会主義建設の画期的前進のために」の部分では、大半が経済建設すなわち新国家経済発展5カ年計画の課題についての言及に充てられているが、その内容には、まったく新味が感じられない。金属、化学を筆頭とし、電力、石炭・・・と続く部門の配置順序においても、各部門の課題においても、従前から主張してきたことの延長線上の訴えが繰り返されている。また、極めて総花的な目標設定の姿勢にも変化はみられない。

 報道は、党中央委員会のこれまでの経緯に対する検証結果、「国家経済発展5カ年戦略が科学的な打算と根拠に基づいてしっかりと立てられていな(かった)」ことが明らかになったとして、「報告では、いままで蔓延してきた誤った思想観点と無責任な事業態度、無能力をそのままにしておいては、そして、今のような旧態依然たる事業方式をもってしては、いつになっても国の経済を築き上げることはできないとの総的な教訓が言及された」など強い口調で従前の問題点を批判している。しかし、前述のような、まさに旧態依然たる新計画の概況を示されると、実際のところ、そうした反省は、現場レベル、実務レベルの問題に限定され、課題設定等における抜本的見直しはなされていないのではないかとの印象を禁じ得ない。

 報告の第3部分、「祖国の自主的統一と対外関係発展のために」の部分については、まず、南北関係に関しての一方的な主張が注目される。「防疫協力、人道主義的協力」などの「非本質的な問題」ではなく、「根源的な問題から解決していかなければならない」というのが原則的立場であるとし、具体的には、韓国側が「先端軍事装備搬入と米国との合同軍事演習」を中止し、「非正常的で反統一的な形態(対北ビラ散布など)を厳重管理し、根源的に除去」しなければならず、そうすれば、いくらでも「3年前の春の日」のような状況が復元できると主張している。これに対し、文政権は、身勝手な一方的主張と批判するのではなく、なんとかそれに応えようと努力するのではないだろうか。

 外交面の主張は、まさに従前の原則的立場を改めて示したもので、対米関係についていえば、当面は、バイデン政権の出方を見定めようという意向がうかがわれる。

 最後に、報告の第4部分、「党事業の強化発展のために」についても、ほとんど新味が感じられない。総花的に様々な項目につき、従前からの定式化された課題・要求を列挙している印象がある。冒頭に「人民大衆第一主義」を掲げ、「官僚主義批判」などにも言及はあるが、いずれについても、予測したほどの「熱心さ」はうかがえない。

 なお、会議の進行状況については、4日目の8日には、以上の「報告」に対する「討論」があったとされる。討論者として名前があげられたのは、党中央の幹部ら8人である。しかし、第1議題(中央委員会事業総括報告)の採決があったとは報じられていないので、あるいは5日目の今日も「討論」が続けられた可能性もある。

 ちなみに、この「討論」に関しては、それを聴取した参加者たちが「互いの経験と教訓を真摯に分かち合いつつ、今後の革新と発展のための意見を充分に交換した」と報じられている。また、金正恩の前掲「報告」が「9時間」とされていることからも、初日冒頭の開幕辞、執行部選出、議題決定などを除く3日間の会議日程のすべてがそれに充てられたとは考えにくい。さらに、前述報道でも、「報告」の結びの部分で、金正恩が大会参加者に対して、「提起された内容と問題を深く研究討議するであろうとの期待を表明」したとされている。

 昨日の本コラムでも指摘したところだが、以上のような報道等からすると、「報告」「討論」などの合間に参加者同志のグループ討議のような時間が設定されていると考えられる。