rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年1月15日 党大会記念閲兵式実施と降格後の金与正の動向

 

 本日、朝鮮中央通信を通じて、14日に標記閲兵式の実施及び金正恩が大会参加者と記念写真を撮影したことが報じられた(労働新聞の電子版は、午後13時現在で、昨日の記事が更新されていない)。閲兵式の記事には、写真が100枚添付されているが、動画は今のところ公開されていないようである。記念写真撮影の動画は公開されている(「我が民族同士ホームページを見た限りだが」。

 閲兵式の参加部隊、登場装備などに関する詳しい分析は、後日、改めて行いたいが、とりあえず、上記2つの行事に関し、とりああえずの所感を申し述べたい。

 第一は、そもそも、かつて例がないと言われる大会記念閲兵式なるものを、去る10月の党創建記念時の実施からわずか3か月後に何のために改めて実施したのかという問題である。単なる大会の景気付けのためであれば、「群衆パレード」でもよかったはずである。

 考え得る最初の答えは、対外的(特に対米)な軍事力誇示というものである。しかし、近く発足するバイデン政権に対北関係改善の喫緊性を認識せしむるためだけでれば、もう少し費用・手間のかからない方法はいくらでもあったと考えられる。後述するようにそのような狙いも込められていたにせよ、そのために実施を決定したとは考えにくい。

 そうであるとすると、やはり国内的な側面、つまり軍の存在感誇示とか国民の緊張感効用といった狙いが強いと考えざるを得なくなる。したがって、これを「経済建設に全力を」と訴えた大会の締めくくりと考えると、いささか首尾一貫しない印象を禁じ得ない。他方、大会における金正恩の「中央委員会事業総括報告」の中で言及があったとされる、戦略核兵器にとどまらない各種新兵器の開発方針や「全民抗戦」などといった表現に着目し、新たな「4大軍事路線」的なものの展開方針を想定するなら、その最後を飾る行事として、閲兵式ほどふさわしいものはないことになる。このことだけで断定はできないが、今次大会で策定されたのは、「経済集中」という名の実質的な「新たなる並進路線」(並進路線ver3と呼ぶべきか)だったのではないかと考える所以である。

 第二は、閲兵式の最大の目玉とされる潜水艦発射弾道ミサイルSLBM)「北極星5型」についてである。10月の閲兵式で、当時としては新型の「北極星4型」を登場させて、わずか3か月後に更にその新型を登場させたということは、北朝鮮の軍事力整備がまさに日進月歩で着々と進捗していることを強く印象けるものである。同ミサイルについては、弾道部分がいささか大型化されたことをもって、多弾頭化とか射程延伸などの可能性も指摘されている。結果として、前述のような対米刺激効果はてきめんといえよう。ただ、実態として、その間、(少なくとも国外から探知される程度の)発射実験などを実施することなく僅か3か月間で本当に新型ミサイルを開発できるものなのであろうか。いささか眉に唾をつけたくなる。専門家の精密な分析をまちたい。

 第三は、写真撮影に関して見られた金与正の動向である。既に一部で報じられているところだが、金与正は、撮影場所(大会会場となった建物前)で待機していた常務委員をはじめとする指導部メンバーとは異なり、金正恩に同行する形で(おそらくすぐ後ろの車両に乗って)同所に到着したとみられる。このことからも、広く指摘されているように同女が政治局候補委員ないし第一副部長からの中央委員・副部長への降格にもかかわらず、金正恩の側近としての独特の地位を維持していることは間違いないといえよう。

 しかし、ここで敢えて問題提起したいことは、それはそれとして、では何故、降格されたのかということである。やはり、そこには何らかのしかるべき理由・背景があるはずである。それを追求することが、北朝鮮指導部内の最深部に働くダイナミクスを理解する上で一つの材料となるのではないだろうか。

 ちなみに、大会開催以前、韓国(の報道)では、同女が常務委員に抜擢されるとの予測がかなり有力であった。それが単なるスペキュレーションであったのか、あるいは、政府当局の得た何らかの情報を根拠にしたものであったのか判然としないが、国家情報院も国会で公式に金与正昇格を予測したと報じられており、こうした分析の誤りは誤りとして(前述のような「側近としての地位に変化ない」説でごまかさずに)、率直にその原因を反省すべきであろう。金正恩も今次大会で繰り返しているように、失敗は、同じ過ちを繰り返さないための貴重な教訓を得るよい機会である。金与正降格をめぐって、韓国では、報道機関・学界・政府機関を通じて、そのような反省の色がまったく見えない。この点についてばかりは、金正恩の姿勢に学ぶべきといいたい。

 では、なぜ金与正が降格されたのかについてだが、はなはだ暫定的なものだが、やはり昨年のビラをめぐる対南キャンペーンを展開するに当たって、何らかの不手際(やり過ぎ?)があったと指摘されたことの「けじめ」をつけさせられた、と考えるのが今のところ、最も合理的な見方であろう。対南ビラ送付をはじめとする軍事計画が急遽「保留」され、その直後の8月、9月の2月間にわたって、当然出席すべき政治局会議なども含め姿を現さなかったのは、そのことについて、「反省」なり「検閲」を受けていたためとも考えられる。なお、そのような責任については、もちろん、同女個人というよりも、当時、対南キャンペーンに従事したチーム全体が問われたと考えられるが、金正恩としては、身内に対しても敢えて信賞必罰を徹底するポーズを示したとも考えられる。あくまでも推測であるが。

 最後に、先般、新指導部を紹介した本ブログ記事で、朴正天軍総参謀長の階級を「次帥」と記したが、「元帥」の誤りでした。お詫びして訂正します。