rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年5月7日 評論「強国評価の基準」

 

 本論説は、明記はされていないが、最近突如浮上した金正恩の「隆盛繁栄する社会主義強国」構想(注)を念頭に置きつつ、そこで言う「強国」の具体像を示すものと考えられる。

 注:昨日付け本ブログ参照。なお、同ブログ執筆後知ったのだが、昨日の朝鮮総連機関紙「朝鮮新報」にも、そのような金正恩の「構想」に関する記事が掲載されたそうである。

 まず、「強国、これは国と民族の尊厳であり。栄誉である。非常に強力な国力によって威容を轟かす国家の気象に民族の前途がかかっており、隆盛繁栄する祖国の姿から人々は矜持と生きがいを感じ、また明るい明日を描くことになる」との一般論を示しつつも、それを評価する基準は国より、人により異なると主張し、軍事力、科学技術、経済などの単一の要素を基準とすることは妥当でないと断じる。

 その上で、あるべき強国の基準として、「人民が健康で健在であってこそ国家もあり、人民が幸福で人民の笑い声が高くてこそ民族の尊厳も輝く。人民の笑い、人民の幸福、まさにこれが社会制度を評価し、国力を計る絶対不変の尺度である」と主張する。

 結論として、「我々が理想とする強国、共産主義社会は、人民が無事・平穏で、和やかに生きていく社会」であるという。そして、金正恩が目指すのはまさにそのような国家社会の建設であることを次のように主張している。

 「この世界で最も偉大で立派なわが人民に一日も早く世界がうらやむ文明的で幸福な生活を抱かせることができる実際的な変化、実質的な発展を必ず成し遂げ、人民の理想社会(実現)を促進しようというのが我が党の確固とした決心であり、意志である」

 金正恩の目指す「強国」の基準が軍事力でないことが示されたのは、大変結構なことだし、同評論の表現には従前とは一風変わった傾向が伺えうることも否定できない。ただし、そこでの主張が直ちに、金正恩の目標が一般的な意味での「幸福(wellness)社会」ないし「福祉国家」の実現であることを示したものと断じるのはやや早計であろう。それを見極めるためには、そこで言う「幸福」が何を指すのかが問われなくてはならない。「首領に一身を捧げて、革命建設に邁進することこそ人民の本当の幸福」「首領を中心とする集団主義が発揮されてこそ人々が真に平穏に和やかにに生きていくことができる」などの論法も可能であるからである。

 いずれにせよ、こうして金正恩の「強国」構想がこのところ具体化しつつあることは、大いに注目すべき動向と考える。