rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年4月10日 評論「愛する母我が祖国は、敬愛する総秘書同志の懐である」

 

 北朝鮮では、現在、4月15日の金日成誕生110周年に向け、多彩な慶祝・記念行事が開催されているが、同時に、「敬愛する金正恩同志が我が党と国家の最高首位に高く推戴された10周年」を慶祝する活動もそれに劣らず活発に実施されている(例えば、平壌での「慶祝中央美術展示会」、「慶祝青年学生の雄弁集会」、各道での「写真展覧会」など)。

 標記評論も、そのような活動の一環として掲載されたものとみられ、「祖国」と金正恩の一体性を主張している。

 「いつからであったのだろうか、我が人民が心の中の祖国との呼びかたが社会主義的人間の尊厳と価値を輝かしてくれ、人民の理想を真に実現してくれ、子孫万代の幸福を担保してくれる主体の社会主義、慈愛深い親の懐であるとの最も熱い呼び方として確信されるようになったのは」と問いかけた上で、「今日、我が人民は、敬愛する総秘書同志の恩恵深い手の上で、強大な社会主義国家の公民となった尊厳と栄誉を胸いっぱいに抱き、公明な未来に向かって確信を持って進んでいる」として、両者の一体化を主張する。

 そして「敬愛する総秘書同志の懐を離れて我々は瞬間も生きていけいない! 敬愛する総秘書同志にしたがって空陸の果てまで!」とのスローガンを掲げ、最後には、やはり、「皆が敬愛する総秘書同志が開かれた社会主義建設の輝かしい進路にしたがって、より勇気百倍して進軍、また進軍しよう!」と呼び掛けている。

 なお、本日の「労働新聞」は、同評論に加えて、「金日成金正日朝鮮の尊厳と栄光を万邦に轟かせられ 我が国家第一主義時代を開かれた絶世の愛国者」との共通題目の下、「反万年民族史に最も輝く自存と繁栄の新時代」「鋼鉄の胆力と気迫、火のような献身の結晶体」「この地にはすべての夢が成し遂げられる」「偉大な理想-天下第一強国」などと題する記事及び「強大な祖国と共に藍紅色共和国旗は我が生活の中でより高くはためく」との標題の下に掲げた国旗等の写真を集中的に掲載しており、これらも、国家と金正恩の一体化という主張を敷衍するものと考えられる。

 これら一連の論調の論理構造は、私の理解力・語学力不足のためか、明確には理解しがたいのだが、要するに、国家の尊厳・栄誉の向上=人民個々の尊厳・栄誉の向上との前提の下、金正恩の執権時期をそれが実現された「我が国家第一主義時代」と主張し、同人の指導力を称賛するとともに、それへの絶対的服従を呼びかけるものといえよう。

 ちなみに、韓国の保守的学者が、最近の北朝鮮の軍事力整備をとらえて、冷戦崩壊以降の韓国の対北朝鮮宥和策の大前提となっていた韓国の圧倒的優位が崩れたとして、そうした宥和政策の抜本的見直しを訴えている。こうした主張を北朝鮮の立場から見れば、国家の尊厳の大いなる伸長と評価することもできよう。そういうことが前述のような主張の背景になっているのであろう。

 ただ、こうした主張がどの程度、北朝鮮の市井の人々に受け入れられるのか、そこはよく分からないところである。