rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年5月12日 評論「我々が理想とする共産主義

 

 標記論説は、「共産主義は、我が人民の最高理想である」として、その実現を訴えるものだが、そこで言う「共産主義」が、金正恩の「強国」構想と密接に結びつけられているところが注目される。

 まず、「共産主義社会」の意義について、「総秘書同志は、我々が理想とする強国、共産主義社会は、すべての人民が息災で平安であり、和睦して生きていく社会であるということについて明らかにした」として、金正恩が構想する「強国」と同義であることを明らかにする。

 そして、その実現方途に関しては、「我々が人民の理想社会、共産主義社会を建設するにおいて、何か経済発展であるとか社会発展の段階を論じる前に、そのような社会を建設しようとするなら、いかなる社会的美風が発揮されるようにしなければならないかというところから正しく認識しなければならない」と主張し、従前の伝統的な「社会主義共産主義」的発展段階論に基づくことを否定し、人々の思想・精神面の改造を重視する立場を示している。

 また、そのための具体的な例として、「戦後復旧期・千里馬時代」の模範的労働者が「我々から本位主義を徹底してなくそう。我が小隊が『一人は全体のために、全体は一人のために!』という共産主義的旗幟を高く掲げ、ほかの小隊を誠心誠意で助け、導いてやろう!」と呼び掛けたことを挙げている。

 評論は、最後に、「わが人民の理想、共産主義! 人類の変わらぬ志向が盛り込まれたこの崇高で偉大な理想は、敬愛する総秘書同志の領導の下でこの地に必ず実現されるであろう」と結んでいる。

 同評論のこうした主張は、5月7日付け評論で示された「強国」構想の中の「強国」を「共産主義」という言葉で言い換えただけの修辞的言説に過ぎないともいえるが、逆にそうであるからこそ、金正恩の「強国」構想が、金正日の「社会主義」に対する過渡期的としての認識(旧社会に残滓が存在するだけに市場経済的要素の活用も必須)であるとか、更には金日成の「社会主義完全勝利」段階論(共産主義の一歩手前段階を指す)などの旧来の思想とは異なる独特のものであることを顕著に物語るものともいえる。

 そして、「戦後復旧期・千里馬時代」の模範視、「一人は全体のために、全体は一人のために!」とのスローガン、更には10日付け社説で示された「真似て先に立つ、真似て学ぶ、経験交流運動」などの最近の宣伝・思想教化キャンペーンがこの構想の実現に向けた推進方途として一体的に展開されていることを強く示唆するものでもある。

 今後、このキャンペーンがどのように展開されていくのか興味深く見ていきたい。