rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年7月5日 社説「革命の開拓期と峻厳な年代に発揮された偉大な精神によって新たな前進の時代、力動の時代を切り開いていこう」

 

 標記社説は、「戦後復旧建設時期と千里馬大高潮時期」に比較して今日の苦境は克服可能とする先般来の主張をバージョンアップして、その比較時期を抗日闘争時期及び戦争期にまで拡大したもの。

 すなわち、趣旨は、「今日の闘争がいかに艱苦であり困難であるとしても、想像さえできない万難を経て暴虐な強盗日帝を打ち砕いた抗日武装闘争や苛烈であった祖国解放戦争(朝鮮戦争)、すべてが破壊された焦土の上でシャベルをふるった戦後復旧建設に比べれば何でもない」ということである。

 そして、それら時期に成果を収めえた秘訣は、「首領の構想と意図を一命を捧げてでも決死貫徹」したことであり、「これは、革命の開拓期と峻厳な年代に発揮された闘争精神の根本核」であると主張する。

 更に、そうした「闘争精神」の構成要素として、①「必勝の信念と屈することのない攻撃精神」、②「自分の力で偉大な抱負と理想を実現していく自力更生、艱苦奮闘の闘争気風」をあげる。

 その上で、今日的課題として、「すべての人民の心臓の中に屈することのない革命信念と自力更生精神を植え付けるための宣伝扇動攻勢を猛烈に展開する」ことを訴えている。それによって「旺盛な攻撃精神で党大会と党中央委員会全員会議の決定貫徹」を図っていこうというわけである。

 あわせて、(前述の脈絡からするとやや唐突だが)「互いに助け導きあう集団主義精神」も強調している。

 そして、こうした運動の対象については、「前世代の闘争精神と気風に従い学ぶ(活動を行う)上で青年が先頭に立たなければならない」として、青年層を重視すべきことを訴えている。

 なお、青年層への働きかけについては、先般来続いている各地青年による農村・困難職場などへの「進出嘆願」の動きも、こうした要請を反映したものともいえよう。ちなみに、「進出」した青年の人数について、朝鮮中央放送の7月3日午後8時の「報道」番組の中で、「1月からこれまでの総数が9,800人、6月中だけで6,200人」に達する旨を紹介していた(文字情報では未見)。この数字からは、同運動が6月に入って急加速されていることがうかがえる。

 話を社説の主題にもどすと、現在の困難度を比較する対象が従前より遡って抗日闘争期にまで拡大されたことは、現状がそれを持ち出さなければならないほど厳しくなっていることの反映であろうか。そうだとすれば、大変なことだが、あるいは、単に宣伝のための修辞が独り歩きしているだけなのかもしれない。そこは慎重な見極めが必要であろう。

 ただ、いずれにせよ、そうした時期を比較対象とするということは、では、その間の何十年間の苦労の蓄積は何だったのか、換言すると、何十年間の苦労を経て立派な社会主義経済建設を実現したのであるなら、なぜ今、そのような昔に匹敵するほどの状況に苦しまなければならないのか、という疑問を導かないのだろうか。

 こうした宣伝自体、本ブログでかねて指摘している人民の体制(=指導部)に対する疑念を生み出しているようにも思える。少なくとも、同社説の論理をもってしては、いったんそうした疑念を抱きはじめた人々を奮い立たせる効果は期待できないのではないかと思われる。