rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年7月10日 論説「革命的修養と党性鍛錬を一層強化しよう」

 

 本日の「労働新聞」冒頭に掲載された標記評論は、先の党政治局拡大会議における金正恩の発言に基づき、「幹部革命」の実践、すなわち幹部による「革命的修養と党性鍛錬」を訴えるもの。その必要性を説く「1」と具体的方法を説く「2」から構成された長文のものである。

 このうち「1」では、まず総論的に幹部革命の重要性について、「先鋭に提起される経済問題を解決する前に幹部革命を起こすこと、まさにここに社会主義建設において実際的な変化、実質的な前進を収めることのできる根本方途がある。我が党が幹部革命を現局面に即してより強度を高めて、優先的に深化させるべき全党的な重大課題として提起する理由がまさにここにある」と述べる。

 その上で、幹部が「革命的修養と党性鍛錬を一層強化」することの必要性について、それが①敬愛する総秘書同志にしたがって最後まで革命する信念の人間になるための先決条件である、②党決定貫徹の能熟した組織者、執行者、結束者としての役割をまっとうするための必須的要求である、③人民の真の従僕としての本分をまっとうするための根本要求である、ことをあげる。

 なお、ここで①に関しては、「類例なく酷毒な挑戦と難関が重なる今日、我々の幹部に切実なことは、自らの首領に従い、革命を最後まで行うとの絶対不変の信念を帯びることである」とした上で、「敬愛する総秘書同志は、偉大な首領様(金日成)と偉大な将軍様金正日)が開拓され導いてこられた主体革命偉業、社会主義強国建設偉業を輝かしく継承完成させる鉄石の意志を帯びられ、勝利の一路へと賢明に導かれる卓越した首領であられる」と主張している(下線は引用者)。

 次に「2」においては、まず、「革命的修養と鍛錬の主体は幹部自身である」ことを強調し、この問題は、他律的には実行しがたいものであり、そのため、常に「自ら」「自覚的に」「意識的に」といった表現とともに語られると指摘する。

 その上で方法論として、「基本は政治意識を目的式的に高めること」を挙げ、具体的には、①「首領の革命思想とその具現である党の路線と政策でしっかりと武装」すること、②党生活に自覚的に誠実・勤勉に参加すること、③群衆の中に深く入り込むこと、などをあげる。

 また、それは、換言すると、幹部が「偉大な金正恩同志型の政治活動家になること」であり、これは、「革命的修養と鍛錬の総的志向であり、目標である」とも主張する。そして、そのためには「首領の風貌を真似るため努力すること」が必要であるとし、「思索も実践も風貌も敬愛する総秘書同志を真似るために百倍奮闘する幹部」になるよう訴えている。

 以上の論説の内容、とりわけ「1」を換言すると、「幹部革命」が実践されない限り、こうした目標を円滑に実現することができず、ひいては、「経済問題の解決」も「社会主義建設の実質的な前進」も期待できないということになる。

 特に、その①について議論を更に延長すると、「革命的修養と鍛錬」の不足した幹部は、厳しい状況の中で金正恩の領導に従っていこうとの信念を持つことができないという意味になり、それが、まさに北朝鮮の現状なのではないだろうか。そうした現状があるからこそ、こうした「革命的修養と鍛錬」が「切実」な問題として提起されているのであろう。

 先の政治局拡大会議は、そうした状況への危機感・焦燥感を背景に開催されたものとみられる。また、上述の議論の中に金正恩が「首領」であることを前提した主張が繰り返されていたことは、先般来の金正恩の「首領化」の動きも、やはりそうした状況への対応のための必要性に基づき急遽進められたのではないかと考えられる。

 更に、そのような推論が正しいとするなら、そうした状況、すなわち金正恩に対する幹部層内での信認の動揺がこのところ急速に深化している可能性を指摘することも許されるのではないだろうか。

 そして、問題を更に深刻にしているのは、「2」で指摘されているとおり、そうした問題の解決策としての幹部の「修養と鍛錬」が他律的な推進が困難であり、結局のところ幹部各自の自覚によるほかないという点である。