2021年10月11日 金正恩がまたも演説
本日の「労働新聞」は、10月10日、党中央庁舎において、「党創建67周年記念講演会」が開催され、金正恩が「社会主義建設の新たな発展期に即して党事業を一層改善強化しよう」と題する演説を行ったことを報じた。
金正恩の演説は、先の最高人民会議における「施政演説」に次ぐものだが、それが国政全般に関するものであったのに対し、今次演説は、題目にも示されているとおり、党の活動に焦点を当てたものである。そのため、「講演会」の出席者も、党中央委秘書・部長、軍総政治局長から市・郡・連合企業所の責任秘書に至る各級党組織の責任幹部に限られている。某テレビ局の昼のニュースで、「金総書記が演説で経済建設を訴え」などと報じていたが、ピントがずれているのではないか。
報じられた演説(原文の掲載はなく、要約的に報道)の骨子は、次のとおりである。
〇 講演会実施目的:国家事業の成否は党の活動にかかっているとの認識の下、「全党の党責任幹部に既に提示された基本戦闘方針を総合して再浸透させ、現時期に徹底して堅持すべき事業原則と事業気風、事業作風について強調するため」
〇 党史の回顧:76年の党歴史において、「最大の功績は、受難が多かった弱小民族を党と首領の周囲に一心団結し自尊心と創造力が強い偉大で立派な人民として育てたこと」。それを推進したのが、「以民為天の理念と人民大衆第一主義を核とする偉大な主体思想」と「党の領導体系」すなわち「首領の唯一的な思想体系、領導体系」
〇 過去10年間の成果:「金日成・金正日主義で定式化された党の領導力と戦闘力が全面的に細部的に再整備された」こと、具体的には、「党の領導的権威と戦闘力が非常に高まり・・幹部隊列と党隊列を精幹化、精鋭化」「人民に対する献身的な服務を革命的党風として樹立」など
〇 政策目標実現の前提:「全党が一致団結し党中央が提示した闘争路線と闘争原則にしたがって一つの方向へと党的指導を集中すること」(「我が党と政府が提示した課題は、党組織が発動して群衆が奮い立てば十分に遂行しうる」)
〇 党事業改善のための重要課題:①唯一的領導体系の確立:「全国が党中央と思想と志、行動を共にする一つの生命体になるようにすること」、②党組織の整備・強化:幹部隊列強化、検閲指導事業の強化など、③思想事業の改善:「人々の意識状態と社会的環境において大きな変化が起きている」状況に対応、「基本要求は社会のすべての成員を党中央の革命思想を信念化、体質化した真の忠臣、熱烈な愛国者として準備させること」、「党政策貫徹のための実践闘争と結び付けて実施」「社会主義信念教養を強化」「3大革命赤旗獲得運動」、④行政経済事業に対する指導の改善:「党組織が方向舵的役割」「経済事業の成果如何を左右する基本因子は大衆の精神力と科学技術」(政治事業を先行させつつ後方事業を並行して勤労者の熱意を喚起)、「道、市、郡党責任秘書が法機関に対する党的指導を深化」、⑤勤労団体に対する指導強化、⑥党幹部の事業気風改善:「人民に絶対的で無条件的に服務していく母なる党」「特典、特恵を望まず清廉潔白に生活」「人民の利益を侵害し党と大衆を離脱させる行為は絶対に容認できない」「高尚な道徳品性を帯びて人民を尊重し、自分を無限に低めなければならない」「常に覚醒し不断に修養」、⑦党中央部署の役割強化
〇結び:「5か年計画期間を国の経済を打ち立て人民の食衣住問題を解決する上で効果的な5年」とする、「次の段階の巨大な作戦を連続的に展開し、世界がうらやむ社会主義強国を打ち立てる」「すべての参加者が我々の偉業に対する無条件的な信念を堅持」
以上からも明らかなように演説の重点は、党事業改善のための重要課題の部分にあり、その中でも特に報道量が多かったのは、③と⑥である。そして、繰り返されたテーマは、党中央(=金正恩)が示した政策、方針に対する絶対的信頼に基づくその実践といえよう。
8日の本ブログにおいて、先の施政演説の根底には、金正恩に対する信認の回復という狙いがあるのではないかとの推測を示したばかりだが、今次演説においては、その習いがより直截的に示されているように思える。その背景には、やはり「人々の意識状態と社会的環境において大きな変化が起きている」状況が強く作用しているのであろう。
金正恩は、そのような状況打開の鍵を幹部の執務態度改善(人民への奉仕姿勢強調)に求めているようにみえるが、果たしてそれが奏功するか、なかなか難しいのではないだろうか。