rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年3月7日 第1回全国市・郡党責任秘書講習会が閉幕(修正版)

 

 本日の「労働新聞」は、標記講習会の6日の開催状況を伝え、同日をもって4日間の日程が終了したことを報じている。昨日報じられた5日の開催状況とあわせて概況を紹介したい。

 講習会3日目にあたる5日には、金才竜組織指導部長及び呉洙容経済秘書(このような肩書が示されたのははじめてのこと)による「講習」が行われた。当然ながら、前者は、「市・郡委員会において、党組織事業と党思想事業を革新」することなどについて、また、後者は、「地方経済を発展させ、人民生活を向上させる」ことなどについてのものであった。その内容は、報道された範囲では、いずれも金正恩の初日の演説の域を超えるものではなく、特段の新味は感じられない。

 しいて注目点を挙げると、組織指導部長の講習に関して、「農村初級幹部と除隊軍人との事業を強化」を訴えたことを指摘できる。これは、先般の本ブログで紹介した除隊軍人の農村派遣に関連して、彼らに「初級幹部」と並ぶ農村振興の核心としての役割を期待していることをうかがわせるものといえよう。

 また、呉経済秘書の講習に関しては、農場において「社会主義分配原則を正確に適用するようにして顕著な成果を収めた」経験を紹介しつつ、「農業勤労者の生産的熱意を高めるための事業を先行させる」ことを訴えた点などが注目される。

 4日目にあたる6日には、まず、初日に「報告」を行った趙勇元組織秘書が改めて「党中央の唯一的領導体系をより徹底して立てること」に関し「講義」を行ったとされる。同講義では、「市・郡党組織が党中央の領導を忠実に奉じていく上で必ず堅持すべき原則と課題が具体的に解説された」とされる。これには、「党決定を無条件で最後まで執行する革命的規律と秩序を徹底して立てる」ことなどが含まれるのではないかと思われるが、その全体像はやや判然としないところがある。

 次に「市・郡党秘書の固い決意を盛り込んだ誓いの文」が採択された。

 ニュース映像を見ると、これに続いて、金正恩が演壇に立ち、演説を行う姿が写されている。記事では、これについて、「講習会を指導しつつ、市・郡党秘書の事業において指針となる貴重な教えをくださった」として、様々な発言内容を紹介している。

 そして、金正恩は、同演説をいったん終えたのち、改めて「閉講辞」を述べ、講習会は閉幕した。

 ここで報じられた金正恩の指導内容及び「閉講辞」は、いずれも、市・郡党秘書の責任の重大性を指摘した上で、同講習会を契機としてその活動を一新させ、地方党組織と人民生活の改善に奮発することを繰り返し訴えたものである。ここでは、具体的な方策等は示されていないが。講習会を終えて地元に帰れば周囲の者は責任秘書がいかに変わったかを注視しているとか、今日新たに任命された気持ちになってとか、様々なレトリックを用いており、そこからは、参加者の態度変容を何とか促そうとする金正恩の強い思いがうかがわれる。

 また、指導内容の一部に「党中央が地方の均衡的で飛躍的な変革のため構想している重大な事業について具体的に紹介した」との表現や「「閉講辞」の中の「党中央は、社会主義建設を次の段階へと決定的に移行させる上で市・郡党秘書の役割に大きな期待を持って(いる)」との表現の背景には、5日の本ブログで指摘した「党の農村建設構想」の存在がうかがわれる。飛躍かもしれないが、これは、金日成時代に一時盛んに標ぼうした(がその後、事実上無視されるに至った)「社会主義の完全勝利」との概念と関連するのではないだろうか(同概念は、要するに、都市と農村の差異をなくすことによって、社会主義を一層高い段階へと移行させるというもの)。

 講習会終了後、金正恩は、参加者と記念写真を撮影したが、撮影場所(党本部庁舎前)には、参加者と共に徒歩で移動し、また、撮影の際の位置も恒例の最前列ではなく、あえて集団の中に立つなど、一体感醸成への腐心をうかがわせた。ちなみに、ニュース映像冒頭の講習会参加者が本部庁舎に入るシーンで、その後方の上記撮影時に金正恩が立った場所付近で、金正恩動線を管理している玄松月と思しき人物らが何やら打ち合わせている姿が映し出されていた。写真撮影の立ち位置を確認していたのではないだろうか。金正恩の一挙一動には相当計算された演出が含まれていることがうかがわれる。

 最後に一つ指摘しておきたいことは、同講習会において金正恩が主席檀に着席した際、終始その左隣に鄭相学党中央検査委員会委員長兼党秘書が着席していたことである。右隣に着席していたのは、趙組織秘書であり、同人は、その職責上からも、また、2回も演説を行ったことからも、そこにいたのは当然といえるが、鄭委員長については、報道された限りでは出番がなかったにもかかわらず、そこにいたことでむしろ存在感が強く印象付けられる。中央検査委員会が、先の党大会で従前の検閲委員会の機能も含めて党内の不正腐敗・官僚主義などの取り締まりを担当することになったことを踏まえると、同人がそこに着席していた理由が暗黙のうちに会議参加者に規律面での覚醒を促すことにあったことは明白であろう。この問題が同講習会の隠れた主題であったことをうかがわせる現象といえるのではないだろうか。