rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年10月8日 評論「施政演説の基本思想」(10月9日記)

 

 標記評論は、「敬愛する金正恩同志の歴史的な施政演説の思想を深く体得しよう」との共通題目の下で掲載されたもので、先の最高人民会議における金正恩の「施政演説の基本精神」について論じたものである。

 評論は、それを「社会主義に対する確固たる信念と鉄石の意志を帯びて、激変する主客観的情勢に即して社会主義建設の新たな発展を力強く主導していかなければならない、ということ」と意義付けている。

 これを分解すると、①社会主義に対する信念の堅持と②激変する主客観的情勢に即した社会主義建設の促進、という前後2つの部分からなっていると考えられる。それぞれの趣旨を評論の中の表現を借りて敷衍すると次のとおりである。

 まず、①については、それが「我々の政治思想的威力をくまなく強化するための必須的要求」であり、「すべての人民が社会主義に対する信念をより固く堅持しなければならない」と主張し、「いかなる逆境の中でも動揺しない信念、社会主義と最後まで生死運命を共にしようとの透徹した覚悟を持って、党の周囲により鉄石のごとく結集し闘争する」ことを訴えている。

 また、②については、それが「人民生活を全的に責任を負い、高まる人民の物質文化的需要を円満に充足させる」ことにつながり、「国家発展の要求と主客観的状況に対する正しい判断の下で自立経済の土台を固く築いていくこと」、「試練が積み重なるほど国家経済の自立的で持続的な発展のため決死的な努力を傾け、現実に符合して社会主義の勝利的前進を不断に加速化」することと主張している。

 同評論は、この時期、金正恩が改めて「施政演説」を行った狙いを示すものとも考えられるが、正直言って、前述のような記述は、その趣旨を直接的に明示するものとは言い難い。

 やや、大胆に推測すると、①の主張からは、要するに、人々の間で「社会主義」すなわち既存政治指導部に対する信頼が動揺していること、その背景に厳しい「逆境」「試練」の継続が存在することを前提として、その回復を目指していることがうかがえる。

 また、②の主張からは、現在の政策に対し、「主客観的情勢」に即しての合理性・妥当性に疑問(目標が過大、野心的過ぎるとの)が呈されていることを受けて、その必要性を主張しようとの狙いがうかがえる。ちなみに、この点に関連して、同評論と同じ題目下で掲載された「国家経済の全般的発展は切迫した課題」と題する評論は、「国家経済の自立的強化において重視すべき問題は、人民経済のすべての部門をみな一緒に全般的に発展させることである」と主張している。これは、現在のいわば総花的な産業振興策(金属、化学を重点部門としつつ農業、軽工業を督励。更に国防工業にも注力)の正当性を主張するためのものとも考えられる。

 総じて言うと、現存の路線・政策に対する不信・不満が国内に拡散し、それが政治指導部(端的に言えば金正恩)の権威の動揺を招きかねない(あるいは既に招いている)状況があり、それに対する説得として今次「施政演説」がなされたとの見方ができる。

 この評論だけをもって、そう結論付けるのは速断に過ぎるであろうが、一つの可能性として留保しておくことは許されよう。

 いずれにせよ、同「施政演説」について、巷間では、対韓・外交部分(特に南北通信線復元表明)だけに焦点が当てられたが、内政部門に関する長大な言及についても、応分の検討が必要と考える。